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快「名前!」
『あ、快斗くん!どうしたの?』
快「ちょっと名前の様子を見に来ただけ。元気してたか?」
『もう〜私はもう子供じゃないし。第一快斗くんよりも年上なんだけど?』
快「たかが1コだろ?」
『されど1コよ』
江古田高校ミステリー研究会。私はここの部長を務めている。
快「だったらもっとしっかりして欲しいもんだね〜」
この減らず口の後輩は、黒羽快斗くん。別にミステリー研究会のメンバーではないが、たまに顔を出しに来る。
昔、道に迷って泣いていた私を元気付けてくれた彼。偶然にも同じ学校に通っている事が発覚。それ以来、家は離れてはいるが昔から何だかんだで一緒にいた。
『しっかりって…一応部長よ?』
快「部員1人なんだから、部長になるのは当たり前だろ?」
『…』
残念な事に、我がミステリー研究会は部員私のみ。
『で、でも推理くらいなら少し出来るし…。あ、快斗くんのマジックだって頑張ればタネも…』
快「…ったく、何が楽しくて推理なんてすんだぁ?マジックはな、純粋に楽しめばいいんだよ!ほらっ」
『わぁ…』
そう言った快斗くんの手には一輪の薔薇の花が突然現れた。このマジック、好きなんだよね。
快「そうそう。マジシャンにはお客さんの無邪気な笑顔が一番なの!」
『う゛〜…』
惚けてた私のおでこをつつきながら彼は言う。
何でか快斗くんには勝てないのよね…。
『…あ、でも彼ならタネ分かっちゃうかも!』
快「…彼?」
『ほら、高校生探偵の!帝丹高校2年の工藤新一くん!』
快「…あぁ〜」
『彼ってどんな難事件も解決しちゃうし、もう憧れなんだよね!』
快「けっ。なぁ〜にが楽しくて人の粗探しすんのかねぇ?」
『…快斗くんって工藤くん嫌いなの?』
なんだか不機嫌そう。
快「…べっつに〜?そういうオメーはどうなんだ?」
『私?』
快「…工藤新一が好きのか?」
真剣に聞いてくる快斗くん。何だかいつもの快斗くんじゃないみたい…。
『…好き、だけど?』
だって憧れの人だもん。平成のシャーロック・ホームズと言っても過言ではない気がする。
快「…」
好き、と私が発言すると快斗くんが押し黙る。
『…?』
どうしたんだろ?眉間に皺寄せて…。悔しいような、悲しい顔をしてる気がする。
『…快斗くん?』
快「…なぁ、名前」
しばらく沈黙した後、快斗くんが口を開く。
快「サーストンの3原則って知ってっか?」
『は?』
突然何を言い出すんだろ…快斗くんの意図が見えない。
快「3原則、言えるか?」
『えと、確か…。種明かししてはならない、これから起こる現象の説明をしてはならない、同じマジックを繰り返してはならない?』
快「…そう。今からオメーに最高のマジックをやってやるよ」
『最高のマジック?』
快「あぁ。名前、目を閉じてくんねぇか?」
『え?何で…』
快「…1、種明かしをしてはならない」
『…はぁ』
これは従えって事?
私はゆっくりと目を閉じる。
快「…2、これから起こる現象を説明してはならない…」
快斗くんの言葉がそこで切れ、唇に何かが触れた。
『…!?』
びっくりして目を開けると、快斗くんの顔が目の前にあった。
私、快斗くんにキスされてる…?
呆然としながらも、快斗くんの唇を受け止める。
ゆっくりと離れる2人の唇。
快「…名前の事が好きなんだ」
離れた快斗くんの口から告げらた言葉。
快「3、同じマジックを繰り返してはならない。…俺から名前への、名前だけへのマジック。どうだった?」
いつもの快斗くんの笑顔で微笑む。
『…バカ。魅力的すぎて、離れられない』
快「…仕方ねぇな。名前、オメーのそばにずっと居てやるよ」
そう言った快斗くんに強く抱き締められる。
快「あ」
『ん?』
急に大声を出した快斗くん。
『どしたの?』
快「さっきの取り消せよな?」
さっきの…?一体何の話?
快「工藤新一を好きって話!名前は俺だけを見てればいーの!」
格好いいんだか、幼いんだか。
魅力的な彼に出会った時から、マジックにかかっていたのかも。
→感想・感謝
bkm