※安永+レーゼ
安永:スカウトキャラ一年。





 宙で弧を描いて飛ぶボールを見つめるだけの半日。安永はもはや空へ旅立ちそうな魂を何とか留めている状態だ。自分は何をやっているんだろう。何の為にサッカーをやっているんだっけ。何でベンチに入っているのか。まあ仕方ないかと再び蹴り上げられたボールを見た。きらきらと汗をかく仲間たちを羨ましく思う。ユニフォームだけの彼らに対して、自分はジャージ。動いていないから、暑くないから……。ぽつりとした疎外感が胸に残る毎日。別に妬ましいわけじゃないけれど。

「どうした」

 隣で本を広げるレーゼに話しかけられ、飽和状態だった魂を口の中に引っ込める。

「え?」
「心、此処に在らずだったぞ」

 本からは目を離さず、彼は中性的な声音で紡ぐ。ああ、うん、と曖昧な返事を返す。

「暑くて」
「ジャージを脱げばいいではないか」
「そうだけど、いいんだ」

 空を仰げば、寒い中では最適な太陽の暖かさ。凝り固まった目にその光を浴びせると、くしゃみをしたくなった。
 ぱらり、と静かなページを捲る音。
 グラウンドの端。孤島に流されたような所は限りなく静かであった。

「何の本読んでんだ」
「色々だ」
「色々って言ったって」
「色々書いてある」
「辞書?」
「少し違う」

 レーゼはまたページを捲った。小さな文字で、安永は少し目を細める。だが内容は見えなかった。

「何を考えているのか分からんが」
「うん?」
「天才とは1%のひらめきと99%の汗でできているらしい」

 唐突であったから、安永は首を傾げた。相手も本から顔を上げて首を傾げた。どうだ、と言いたげな顔に安永は笑った。ベンチに入って久しぶりの笑顔だ。

「宇宙人ってエスパーなの? 超能力使えんのか?」
「人間だが」
「そうだったな。うん、人間だよな」
「ああ」
「あの、レーゼ」
「何だ」
「ありがとな」







え:エジソンが好きな君




2010.02.06









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