※ヒロト×緑川




「俺は悪い子だ。八方美人で猫かぶりで嘘つきで」

 暗がりの中、彼の気配が近づいてくる。
 夏の匂いに虫の羽音。じっとりと貼り付く髪を払いたいがそれはできない。
 じわりじわりと歩みを進める。首筋を刃物で撫でられる感覚、自分の生命の危機への警告、悪寒、俺は明日の朝、目を開けるのだろうか。
 突如、彼の吐息が耳に吹き込む。熱い息とは裏腹、近くにあるだろう彼の体温は冷たく感じられた。

「父さんに愛されたくて俺頑張ったんだけど、皆に嫌われちゃあ仕方ないよね」

 俺は良い子になりたいんだから。
 べろりと頬を舐められる。舌の広い面で。舌先じゃなく。悲鳴が漏れた。

「君は、俺の事好き?」
「好き、好きだから!」
「ほんと?」
「本当!」

 秘めやかな笑い声が聞こえる。それは段々と響き、鼓膜を痛いほど揺るがす。

「うん、じゃあ可愛くないてね?」

 目を覆い隠していた布が取り払われた。窓から入り込むライトの光が眩しい。口の周りを舌が這う。

「鳴かないと、殺しちゃうよ」







の:信長が好きな君




2010.09.12









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