こうしてできるのねー


「今日のおやつはカルピスで飲もうなー」
「わーいカールピースー!」

 俺がせっせとグラスにカルピスの原液を入れていく間、慧音が人数分買ってきておいた団子を皿に分けていく。その皿たちを皆に運んでいくのは、面倒見の良い大妖精と生真面目なリグルに要領が良いミスティアだ。チルノの前に団子を置いた大妖精が、まだ食べちゃダメだよ、と諭す。チルノは不満そうな顔をしつつも、きっちりと彼女の言う事を聞いていた。

「運び終わったら、こっちも手伝ってくれないか」
「はあい」

 山の湧き水を詰めた瓶を傾けて、グラスを満たしていく。リグルは皆同じ量になるように、最初に俺が入れたグラスと見比べて水を入れていっているようだ。一つ一つ入れていくのにかなり慎重になっている。それを後ろから見ていたチルノが近づいてきて、グラスを手に取る。そしてリグルとグラスを見やり、ぱっと顔を輝かせる。

「簡単な方法があるよ! 全部あたいが凍らせちゃえば皆同じ!」
「はあ?」
「だからね、コップを凍らせれば、皆同じ量でしょ」
「意味わかんねーから、手伝いしないやつはしっしっ!」
「ひどーい!」
「そこ喧嘩するな」

 ここでリグルが一つ満足そうな溜め息を吐いた。全てのグラスに水を入れ終わったようだ。少し誇らしげに笑っている。

「バーン、終わったよ」
「じゃあ運ぶか。あ、一気に持つなよ。二つずつな」
「分かってる」

 まだ小さな手が二つのグラスを運んでいく。俺は手が大きい方だから、四つを手で囲むように机へ持っていった。ルーミアが四つーと間抜けな声音で呟く。

「これで良いかな」
「ああ、じゃあ皆、手を合わせて。いただきます」
「いただきまーす」

 律儀に合わせた手を作り、皆で団子へ一礼をする。馬鹿は多いが、何だかんだで挨拶などの礼儀は良い。
 食べ方は皆様々で、そのまま口をつけたり、一つ一つ串から取っては皿に盛ったり、一思いに串ごと食べてしまったり。いや、串ごとはさすがにいかんかもしれない。

「やっぱり焼き団子だね!」
「餡子の方が美味しいのかー」
「串に刺さってるなら、焼き鳥の方が……」
「ヤツメウナギが美味しいよ!」

 がやがやと団子を食べるだけでうるさい。慧音はそんな様子を嬉しそうに眺めている。
 俺がカルピスに口をつけると、皆一旦団子を置いて、真似をしてなのかカルピスをぐいっと煽った。ぷっはーとオヤジ臭い声が所々で上がる。

「カルピスおいしー」
「あっ、もうなくなりそう」
「あたいに任せて!」

 ミスティアの一言に、チルノが名乗り出る。何だか嫌な予感がすると言った顔で、ミスティアはチルノへとグラスを差し出した。チルノは小さな氷を作り出すと、それをグラスにぼんぼん入れていく。やがてぎっちりと入れられた氷の山を見、鼻を鳴らしてどうだ! と笑ってみせた。

「あーやると思ったわー」
「私もだ」
「ち、チルノ……、これは?」
「氷が溶けたら、カルピスがいっぱいに戻るよ」
「じゃあ普通に水入れなよ」
「冷たい方が美味しいんだから良いじゃない!」

 結露してきたグラスが汗をかき始める。仕方ないので、ミスティアは山盛りになった氷を口に入れてがりがり噛み砕いた。翼がぴくぴく痙攣している。

「カルピスなくなったらあたいに言ってよね!」
「絶対言わない」
「じゃあバーンには入れてあげない!」
「そりゃようござんした」

 団子を頬張り咀嚼すると、それが溜まっている頬をチルノが力強く突く。口から少し噛み砕かれた団子が零れた。

「あにすんだよ!」
「バーンの馬鹿! ばばばばばーん!」
「るっせええええHのくせにいいいいいい!」
「静かにしないか!」

 ここで仲介をしに来た慧音の頭突きが炸裂した。勿論俺も額にばっちり受けている。脳天が割れるかと思うくらいに痛い。煙が出ていそうな額を押さえて悶え苦しんでいると、周りで俺たちを笑う声。人事だと思って……、授業中寝てる奴ら、明日は我が身だぞ……!

「あ、カルピスなくなっちゃった」
「おかわり居る?」
「うん」
「じゃあ、私持ってくるよ」

 リグルが原液のカルピスを取りに行き、帰ってくる。リグルと大妖精は生真面目で宜しい。
 カルピスを入れ終わると、リグルはじーっとパッケージの横を見つめる。それを見たルーミアが真似をしてパックを見始める。

「カルピスって何から出来てるの?」
「え」

 予想外の言葉に、一同固まる。
 さすがの慧音もすっかり黙ってしまっている。
 そんな中、ミスティアが声を上げる。

「そもそも乳酸菌って何処から沸いてるの」
「え」

 乳酸菌という言葉を知っているのか。まずそこが驚きだった。

「にゅーさんきん?」
「お腹に届く乳酸菌」
「そうそれ!」
「で、乳酸菌って何処から……」
「そりゃお前、工場からに決まってんだろ」
「工場って……」

 そこにツッコミを入れてはいけない。

「それでカルピスって作れるの?」
「いや原料それだけじゃないでしょ」

 カルピス談義は白熱していく。
 慧音はあまりのレベルの低さに、空になったコップや皿を静かに片付け始めていた。

「カルピスは白いけどあれって何で色つけてんの?」
「そもそもなんであんな美味しいの!」
「ピュア製法だから! ピュア製法だから!」

 ああ、段々まとまりがなくなってきた。皆好き勝手言い始めている。俺もそろそろ離脱しようかと腰を上げた、その時だった。

「もうカルピスっていう原料なんでしょ! あたい分かった!」

 まるで鶴の一声のように、皆ぴたりと黙る。
 ああ、これでチルノちゃんってまじH、という展開になる。俺には分かる。皆予想は出来ている筈だ。



「なるほどねー!」
「チルノちゃん珍しくあったまいいー!」
「あたいったら天才だからね! 何かあったらあたいに聞きなさいよね!」

 ……。
 俺は空になったカルピスのパックを、そっと見た。
 何だか、パッケージ横に印字された文字たちが寂しそうに見えて仕方なかった。
  





文殊様からのリクエストで「幻想入りでバーン+バカルテットH劇場」でした。
実際に自分が友達と会話した時の話を元に書いてみました。カルピスおいしいれすゴクゴク。タイトルは、「こうしてわたし達カルピスになるのー!」CMをイメージしました。
お待たせした上に、なんだかそこまでHじゃなかったなあとビクビクしつつの更新です。こんな物で宜しければ受け取ってやってください!><

2011.06.19 初出 

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