「により」未来設定/南涼(クリスマス) 駆け抜ける夜 仁王立ちする風介の前に、晴矢は正座をさせられたまま小1時間過ごしている。 風介はぱしぱしと30cm定規を鞭のように手で跳ねさせながら、無表情に晴矢を見下ろす。晴矢は何が何だか分からないままに、必死で思考を巡らせていた。 ぱし、と一際強い音を立てられ、晴矢は驚く。 冷たい目はそのままに、風介は口を動かす。 「晴矢、わたしが何故怒っているか分かるか」 「……もしかして、風介のプリン食べちゃったとか」 「違う」 「じゃあ、皿割っちゃった事?」 「違う」 苛立たしげに彼は綺麗な形の爪先を上げ下げさせる。その爪先を見ながら、爪が伸びたなと考えていると、彼はダイニングテーブルの上に鎮座する卓上カレンダーを手に取った。2月になっている台紙を捲り上げ、12月に変える。突き付けられたカレンダーには、24日に赤丸で印が付けてある。クリスマス・イヴ。 「分かるか」 「……クリスマス・イヴ」 「そうだ。じゃあ31日は」 「大晦日」 「それだけ分かっているなら、わたしが怒る理由も分かるだろう」 カレンダーを投げつけられる。晴矢の胸に当たったそれは、セーターを引っかきながらずり落ちた。 頬を指先で擦る。何となく意味が分かってきた。 「バイト入れてごめん。それに、クリスマス前後って人が足りなくなるから」 「仕方ないのは分かってる。自分でも女々しい事を言っていると思う」 風介はカレンダーを拾い上げ、テーブルの上へ戻す。 はあ、とあからさまな溜め息を吐かれる。 「楽しみにしていたんだ」 「悪い」 つい、とテレビの方へ目を向ける。29型の液晶テレビと、ゲーム機一式。 「徹夜ゲーム大会、楽しみにしていたのに……」 「すまない」 よくあるフェイク。 色気もへったくれもない。 ←back |