再び雷門と試合をした時だ。 2-0の結果の内、オレが雷門から1点を取った。 前回敗北した際に、特訓と称して死に物狂いに体を鍛えたおかげでオレは必殺技を使わずに点を取れた。 自分でもガッツポーズをして、歓喜の声をあげる。 「見ててくださいましたか、ガゼル様!」 思わず問い掛けると、彼はフロストと共に駆け寄ってきた。 麗しい笑顔で、オレの名前を呼ぶ。 あのガゼル様が笑っている、オレに! それだけで昇天しかけているのに、ガゼル様はオレに向かって飛び込んできた! 他の皆とするように、反射的に腕を広げてそれを受け止める。 抱きとめる腰の細さ。 汗に混じって立ち上るガゼル様の薫り。 これは何というご褒美ですか? 今後3ヶ月の運を使い果たしたんじゃないかな、オレ。 「よくやった、ブロウ!」 しかも頭を撫でてくる! 何だ、やっぱり夢じゃないのこれ。 もう夢でもいい! ああ、ガゼル様……オレ嬉しくてどうにかなりそうです! 試合の結果に、ガゼル様はとても満足なされたようだ。 前の試合なんて、わざとこちらにボールを回すような事をされた上に結局3点差で負けるという屈辱を味わったのだから。 研究所が消え去った今、オレたちの帰る場所は北海道にある廃屋だ。 全員分の部屋を確保できるくらいに広さはある。 最近はなんとか普通の生活ができるようになってきた。 そういえば、プロミネンスの奴らはどうしたんだろう。 「ブロウ、今日はよくやってくれたな」 ガゼル様はおやすみ前に、またオレを褒めて頭を撫でてくれた。 オレの方が背が高いから、少し屈むように言われてガゼル様は爪先で背伸びをしたのだ。 「はい!」 オレ、わんこならめちゃくちゃに尻尾振ってたかも。 ガゼル様とそのまま別れたけど、隣のベルガの部屋からガゼル様の声がした。 壁が薄いので、少し大きな声を出すと隣に聞こえてしまう。 以前、少し馬鹿騒ぎしたら隣のアイシーに怒られた。 ベルガが焦った声でガゼル様、と叫んだ。 よく止めてくれた。痛かったか? とガゼル様の声が続けて聞こえる。 ああ、そういえばベルガは特訓のしすぎで手首を痛めてたなあ。 それなのに失点なしでボールを止めてくれた。 感謝しなくちゃな。 布団をちゃんと肩まで被って、目を閉じる。 隣からはまだガゼル様の声が聞こえる。 その声を聞きながら、オレは幸福な一日を終えた。 凍てつく闇に負けた時の話 おや、変態が騒いでいるようだ ←back |