赤と青の番いと完全で瀟洒な従者



十六夜咲夜は頭を痛くした。幸いであったのは、お嬢様もその妹も寝静まっている事である。
足元に伸びきった妖精メイドたちに溜め息をついて、赤い床を踏みしめた。肩幅まで開いた足で体を支えて、自分の目の前に仁王立ちする子供二人組みを迎える。できれば門の所でお帰り頂きたい所だが、今日も門番はシエスタであった。そして今回も彼女が侵入者を撃退しなくてはいけないようだ。

「主に御用があるのですか」
「ああ、大有りだ」

赤い子供が高々と言う。横にぴったりとくっつく青い子供は咲夜を見据えながら、足元にある黒い鞠を爪先で弄んでいた。はて、お嬢様は人間の子供と遊ぶ約束をしていたのだろうか。彼の足元にあるのは、人間の里で一時期流行った「サッカー」をする為のボールだ。いつお嬢様は人間のお友達ができたのかしら、と咲夜は冗談めきながら思う。

「凄い屋敷だな」
「ええ、迷ったらそのまま忘れ去られてしまう位の大きなお屋敷ですもの」
「そりゃあすごい」

赤い方が大きな窓と高い天井を眺めながら、感心したように呟く。青い方も相槌を打って、話に加わってくる。

「と、いう事は相当な権力を持っているのだろう」
「そうよ。我が主は私の誇りでもあるから」
「その主人に面会をさせて貰えないだろうか」
「生憎、お嬢様はおやすみでいらっしゃるの」

随分のんびりとした主人のようだ、と青は首を傾けて笑った。確かに彼女はマイペースである。それは咲夜も否定しない。私が御用件をお聞きしましょう。咲夜がそう言うと、赤は首を振った。

「あんたには関係ない」
「あら、でも聞かせてくれてもいいんじゃないかしら」
「……この屋敷を譲り受けたい」
「不動産関係の方かしら。お断りしますわ」
「権力の証であるこの屋敷を我らの物にしたいのだ」
「それもお断り」

咲夜はようやくこの侵入者がどれだけ悪質か気付いた。本当に最近は珍客が多いものである。

「なら、力尽くで奪うまで!」

赤と青が同時に飛び出してくる。咲夜はナイフを手に取った。中々二人とも速い。身体能力は普通の子供にしてみたら遥かに高いようだ。片方がサッカーボールを蹴って、それが咲夜の脇を通り過ぎた時、後ろ側に移動していた赤がボールを受け取りまた蹴り出してくる。弾幕は一切使わない。撃ち出されるのは一つのボールだけ。それで咲夜は気付いた。もしや、この子供たちは巷を騒がせる「番い」ではないのか。

「よそ見してないで! 当たるなよ!」
「当たるわけがない」

こんなに一直線なのに。
試しに咲夜はナイフをボールに向かって投げてみた。ボールはナイフを弾き返す。おかしい。ボールは丈夫と言えども、ナイフに刺されば使えなくなるはずなのに。彼女は跳ね上がると、そのまま真下に来た青に自重に任せて踵落としをするが、相手は反応も早い。すぐにバックステップで逃れる。
床に足がついて咲夜が体勢を立て直そうとする所へ、ボールが飛んできた。目の前に迫る直前、咲夜は時を刻む針を止めた。
空間は無音になる。目の前に迫ったボールもその位置から動かない。動いていた生物の命の動きは全て止まっている。この世界の中で唯一、鼓動を脈打ち生きているのは咲夜だけだ。

「何なのかしらね。この子供たちは」

咲夜はボールから離れて、二手に分かれている赤と青をもう一度よく観察してみた。どちらとも通気性の良さそうな生地の服だ。膝が出るように切られた半ズボンも、この幻想郷ではあまり見ない格好だ。黒い鞠を使って妖怪を無差別に攻撃する子供は、スペルカードを知らない。それとこの外の世界のサッカーボール。サッカーをする為の道具でちゃんとしたものを見るのは初めてだ。まだ外の世界で「サッカー」というものが忘れ去られている事はないだろうし……。この事から、恐らく子供は外来人ではないのか。

「それではこじつけのしすぎかしら」

そうであっても、そうじゃないとしても、彼らのした事に反省をしてもらわなくてはいけない。まあ死ぬ事もないだろうから。咲夜は自分を軸にナイフをばら撒いた。止まった時の中で静止する刃は四方八方に散り、相手を襲うだろう。まあそれは許される事だし、不法侵入をした方が悪い。

「ガゼル! 退け!」
「分かってる!」

動き出した時の中、子供は叫んで自分の目の前に展開されたナイフから逃れようと、走り出した。しかし、そのまま扉から出て行こうとする気配は見せない。中々勇気がある。だが、早く出て行ってもらわなければ色々と面倒だ。これから地下にこもる魔法使いにお茶を淹れに行かなくてはいけない。
持ったナイフを壁に投げつけ、それが反射し二人に降り注ぐ。赤と青のバックステップ、一回、二回、三回……。

「悪魔の屋敷に入り込もうとする勇気はとても素敵だけれど、私のナイフに刻まれるのとお嬢様に壊されてしまうの、どちらが本望かしら」

ぴくりと青が反応する。赤い方の名前を呟き、顔を見合わせた。

「悪魔?」
「あら、知らないの。この紅魔館はその名の通り、紅い悪魔が居るのよ。死にたくなければ、早々に立ち去る事ね」

二人は考え込んだ結果、屋敷を出て行った。
悪魔とか、妖怪とか、幻想郷とか……意味が分からない! そんな声が聞こえた。









3.貴方の時間も私の物











咲夜さんが書きたかった、ただそれだけ。これで時間軸的に0に繋がります。
まず、紅魔館に目をつけたのがいけなかったカオス。切り刻まれなくて良かったね、と言った風。一番使いたかったのが、ザ・ワールドですが…その描写があまりにも少なすぎてしょんぼりーぬ。
もうちょっとでラスト。あと2話くらい?

2010.03.14 初出

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