※楽園の素敵な巫女、普通の魔法使い、完全で瀟洒なメイド それは肌寒い紅霧の夏が過ぎ去った後のある日の事だった。 博麗霊夢は眉を顰めさせながら、温かな陽の光を受ける縁側に腰掛けて紅霧事件の黒幕の悪魔――の従者である十六夜咲夜の話を聞いていた。ぴんと背筋を伸ばして腕を組む咲夜の言葉に、霊夢の隣で興味ありげに耳を傾けていた霧雨魔理沙がメイドに指を突きつけた。 「自業自得だぜ。きっとあんな騒ぎを起こした罰だ」 「それはあなたたちが充分した筈でしょう」 呆れたような口調で咲夜は肩をすくめさせた。 まあそうね、霊夢も彼女に同意し茶を啜った。少し色の薄いそれはあまり美味しくない。そろそろ人里に下りて茶葉を買いに行くべきかと彼女はその緑をじっと見つめた。 咲夜はそんな巫女を観察してから、もう一度要件を繰り返した。 今回、彼女が身を置く紅魔館に侵入者が入った。それは13、4歳の位の男子であった。彼らは権力を持つであろうこの館を奪いに来たという。偉そうな口振りの割には呆気なくやられて退散したのであるが、彼らは勝負事において定められたスペルカードルールに則った勝負をせず、黒い鞠を使って応戦した。最近妖怪たちが弾幕、スペルカード以外の方法で傷つけられている事件が騒がれているが、それと大いに関係あるだろうから異変解決のプロに情報提供をしに来た次第である。 咲夜は首を傾け、二人を見つめた。やはり霊夢は嫌な顔をして茶を啜るだけだった。 「私が出なくとも、あんただけで捕まえればいいじゃない。簡単な事よ」 「私にはお屋敷のお仕事がありますので」 「時間がなくても、咲夜にはたっぷり自由時間があるのにな」 魔理沙の言葉にメイドは笑う。 「全ての時間をお嬢様だけの為に使いたいのよ」 「大した忠誠心ねえ。でも、その侵入者の血を主人に捧げようとは思わない?」 「あまり美味しそうじゃなかったから。とりあえず、一刻も早く犯人を見つけるべきだわ。被害が広まるし」 「まあいいけど。そこまでして押し付けたい理由って何よ」 ぱりっ、と煎餅の割れる音。勝手に手を出した魔理沙を叱りつけ、霊夢はメイドに向き直った。困ったかのように眉を下げ、咲夜は溜め息をついた。 「犯人は外来人だわ」 「何だって」 その単語に巫女と魔女は同時に身を乗り出した。時々、閉鎖されたこの幻想郷に突如として迷い込む外の人間がいる。そんな彼らは「外来人」と呼ばれ、その外来人を元の世界へ返す役割を博麗の巫女は担っている。霊夢の経験上、外来人はごく一般的な人畜無害の人間が多いのだが、妖怪を傷つける力のある者が出るのは初めてだ。 「これは、貴方の出番ですわね」 にこりとした咲夜に、霊夢と魔理沙は顔を見合わせる。 仕方ないと博麗の巫女は重い腰を上げるしかなかった。 0.腐っても博麗の巫女 黒鞠事件編。幻想入り第一話です。 拍手で黒鞠事件=バンガゼ夫婦喧嘩ですね、分かります。という素敵な予想もしてくださった方も居たのですが、案外普通の事件ですみません…。 今回は東方キャラ視点が多目になると思われます。 2010.02.20 初出 ←back |