れはまさに眠る猫を膝に乗せている時の幸福感


1.
ずっしりとはいかないが、何ともいえない絶妙な圧迫感。
重すぎず軽すぎず、腹の前に回した腕もあまりの腰の細さに驚く。
あぐらをかいた足の間に腰掛けるのは元ダイヤモンドダストキャプテン、ガゼルこと涼野風介である。
今日寒いのか彼にしては長袖と厚着だ。
人肌に包まれる安堵感か彼は先程から舟を漕いでいる。
自分もそれを囲む皆も温かい気持ちになり、平和だとのんびり時間を過ごしている。
まるで親子だな、とウルビダに言われたが自分と風介は一つ違いである。それを思ってかせめて兄弟だろうとヒロトがつっこむ中、そうか親子かと納得した。
彼を慈しみたいという感情は、親が子に対して持つものかもしれない。
未来に自分に子供が産まれた事を想像してみて、そうだろうと断定した。
寝入ってしまい、自分で体を支えられなくなった風介を胸にもたれさせる。
穏やかな寝顔に、前のように眠れない事もなくなったのだと安心させられた。
通りすがりにレアンが風邪を引くからとタオルケットを被せる。
少し子供っぽい動物柄に、風介と釣り合わないかと考えたら意外と似合っていた。
周りから可愛い、と声が上がる。

「いいなあ、私も体が大きかったら膝に乗せられるのに」
「アイシーは今のままで十分だよ」
「兄さんが良くても、私が嫌だわ」

頬を膨らまされるアイシーに苦笑いする。
女の子はそれくらいが可愛いさ、とブロウが言えば更に頬が膨らんだ。餌を溜め込んだハムスターみたいだ。
ちょんちょん、とリオーネが頬をつついて空気を抜いていく。
それで更にその場が和んだのだが、その様子をなにやら熱い眼差しで見守る人影があるのに気付きはしなかった。




きい人の膝が定位置です


2.
「ベルガ」

聞きなれた声に、前方に意識をやればそこには元プロミネンスキャプテンのバーンこと南雲晴矢が立っていた。
複雑な表情に何があったのか心配になった。
感情の読み取れない彼に周りの皆も首を傾げる。
その、と晴矢は口ごもった。風介にちらちら視線をやりながら、何かを言いたそうにしている。
いつも単刀直入に物事を伝える彼らしからぬ行動だった。
風介を見る事と、彼自身が風介に好意を抱いている事実からベルガは直感的にひらめく。

「ガゼル様に御用がおありなら起こしましょうか?」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「バーン様らしくないですね。早く御用件をおっしゃってください」

クララが冷たさを含んだ声音で晴矢に告げた。
クララの晴矢に対する態度がひどいのは全盛期よりはましになったが、それでもまだ敵対心を持っているらしい。
晴矢はそんなクララを気にせず、深呼吸をして自分を落ち着かせた。

「あのだなぁ……」

はあ、とベルガは気の抜けた返事をする。
恥ずかしげに目をそらしてから、晴矢は膝で眠る風介の隣を指した。

「俺も膝に乗せてくんねえかな?」
「ええ、どうぞ」

なんだそんな事か。正直ベルガはそう感じながら、風介を右側に寄せて空いた左側を明け渡した。
そのスペースに晴矢がちょこんと座る。
風介と変わらない体型で重すぎず軽すぎず、違うのは体温が高い事くらいだ。

「どうなさったんですか、バーン様」

ドロルが恐る恐ると晴矢に問い掛けた。
質問に居ずらそうに晴矢は体を小さくする。

「その、な、うちの奴らがさグレントとボンバとサイデンの膝占領しちまって」
「ああ、なるほど」

ブロウが思わず声を上げた。バレンもその答えに納得だと相槌を打った。
そんな彼らはフロストの膝に腰掛けている。
クララもそれなら仕方ないと目を閉じた。リオーネも仮面の下で笑う気配がする。
二人の令嬢はゴッカの膝の上に落ち着いており、アイキュー、アイシー兄妹も妹が兄の足の間に座っている状態だった。

「で、はぶられたわけだよ」
「それは災難でしたね」

アイキューが呟けば、アイシーも頷き、しばらくここにいらっしゃってくださいよ、と促した。

「ありがとな」
「いいえ」
「座り心地はいかがですか?」
「抜群」

屈託ない笑顔で答えられ、ベルガも笑みが浮かんだ。
そして再びその場は和んだ雰囲気で包まれる。

体の大きい人の膝=椅子という事に最後まで誰もつっこみはしない。
これがマスターランククオリティ。



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