※10/10で南南の日!



 暗く、沈む、でも心地良い。
 きっと夢を見ている。
 うっとりとしながら、でも覚醒している感覚。
 夢の中で夢を気付く事を何と言ったか。

「明晰夢」

 確か、そうだったか。
 聞き覚えのある、だが聞きなれない声に俺は首を傾げる。
 その声に関しては、もう驚く事さえ忘れてしまった。

「なあ、いい加減に俺を認めろよ」

 そう闇に紛れて耳元で囁いてくるのは自分自身。
 嫌だ、と声を出すけれど、自分はせせら笑いながら俺の耳に舌を入れてくる。

「なあ」

 ぴちゃりと、生々しいリアルな水音。
 俺は身体を捩るけれど、それはいつも失敗に終わる。こいつの世界なのだから当然だ。

「お前、本当はずっとあそこに居たかったんだろ?」

 そんな事ない。
 首を振れば、嘘吐きと罵られる。
 『俺』は腕を俺の首へと回し、そして愛おしむように囁いてきた。

「本当は必要とされたかった、ここじゃなくてあそこで」

 風が頬を撫でるように、指先が肌の上をなぞる。
 首筋に当てられた唇から吐息を零し、言葉が紡がれていく。

「俺は必要とされたかったよ。誰でもない、お前だけだって」

 うるさい。

「ずっとずっと必要とされたくて、愛してほしかった」

 嫌だ。

「でも本当は、あいつらに言われたかったんだろ」

 首を絞めるように、『俺』はいやらしい声で言う。
 蛇のように身体を這い、そして毒で犯していくのだ。
 脳裏に浮かぶ、彼の顔。俺はそいつが浮かべる笑顔を思い出して、堪らなく泣きたくなった。
 手と唇と胸と優しい声音。
 それを疑う俺なんか、俺じゃない。

「お前の望む言葉を、俺はあげられる」

 ほら、と顎を捕らえられる。
 力に誘導された先には、黄色いユニフォームを着た俺自身。
 きらりと、暗闇の中で黄金の瞳が煌く。

「裏切り者」

 そう囁く言葉は酷く甘い。
 俺を罵倒する言葉は、じんわりと身体を包んでいく。
 ひくひくと、指先がかじかんでいく。頭が真っ白になる。心臓が高鳴る。

「優しいだけの言葉じゃ、お前は満足しないもんな」

 俺は涙を零す。感じるのは哀しみではない、喜びだ。
 言葉一つ一つが俺をなじり、そして耳を犯す。
 俺は、と舌足らずな声で反論しようとする。それはあくまで戯れ。
 身を焦がす言葉を、俺は気持ち良く感じていた。
 
「なあ……」

 甘い声。それを今、俺が発しているだなんて、何て救いようのない。
 でも身体はずっと熱いままだ。
 もう良いだろう。ずっと待ち望んでいたものを、与えてくれるというのだから。

「もっと俺を、罰して」







自分自身というCP大好きなスドウです。
鬼畜眼鏡の克克のように、セルフSMでもやってればいいよ。
僕は雷門沢×月山沢が美味しいかな!

11/10/10 初出

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