※P4の足立と南沢
 ほんのりネタバレ







「僕ねえ、左遷させられちゃうんだ」

 アルコールと一緒に漂う麦の匂いと男の言葉に、南沢は眉を寄せた。
 男は帰ってきてから、ビール以外のものを口にしていない。
 床に放置されていく空き缶の数が更に増えた。
 男は嘲笑しながら、新たなビールを開ける。

「足立さん、飲みすぎなんじゃない」
「うるさいなあ、君は気にせず勉強すればいいの」

 南沢の声を聞きうけず、足立は酒をあおった。
 ぷはーと吐き出した息は、案の定アルコールに汚染されている。

「そうだ、君も飲む?」
「未成年に飲酒勧めるとか、あんた刑事だろ?」
「んー言われると思った」

 中身の入った缶を左右に振るものだから、飲み口から中身が零れた。
 酒はそのまま飛沫となって、足立のスラックスへ降り注ぐ。

「あーふざけんなよ!」
「自業自得じゃん」
「ったく、口の減らないガキだな。可愛くない」
「可愛くなくて結構」

 手元にあるテキストのページを捲った。現在、南沢は漢字の書き取り中である。

「てか真面目に勉強なんかしてるけれどさー、君サッカーしてるんだからやんなくてもいいんじゃないの?」
「そういうわけにもいかないだろ」
「真面目ちゃんだなあ」
「あんたもそうだったんだろ」
「君みたいな青春送ってないのー」

 あ、もうないや。
 足立はそう呟いて、缶を放る。また酒の雫が畳にシミを作っていく。

「僕の青春はこれからだからね」
「いてえな」
「失礼な!」

 思わず笑ってしまう。
 足立はまだむすっとした顔のまま、南沢を睨みつけていた。

「ったく、ホント可愛くねー」
「どーも」
「おばさん早く帰ってこないかなー、ガキのお守りなんてあとだけで良いのに」

 少し日本語おかしくない?
 南沢は心の中で呟く。
 テキストに並ぶ漢字を目で追い、ノートに5回ずつ繰り返し書いていく。来週の月曜にはテストがあるから、この週末に完璧に頭に叩き込んでおきたい。

「で、左遷ってどうなるんだよ」
「ド田舎に吹っ飛ばされる」

 左遷というか、島流しのようだ。
 南沢はテキストに印字された「左遷」の文字をノートに書いていく。

「俺でも分かるとこ?」
「分かんないよ、きっと」

 足立はそのド田舎の名前を口にする。
 全く聞いた事のない場所であった。

「おめでとう」
「うるさいな」

 しっかりと整えられた髪の毛を指先でかき乱し、足立は舌打ちをした。整えられた髪よりも、ぼさぼさになった髪の方がこの男に似合っている気がするのは何故だろう。
 でも、と足立は呟く。

「楽しみだな」
「左遷されるのに?」

 足立はゆっくり頷いた。
 こちらに向けられた瞳を見た瞬間、ぞくりとした。
 何処か暗く深い目。それが黄色に瞬いたように見える。

「もう何回も繰り返してるけどさ、今回は違う気がする」

 足立はようやくジャケットを脱いだ。床に投げ捨てられたそれを見て、あとでハンガーにかけてやろうと南沢は思った。

「君っていうイレギュラーが居るからね」

 ジャケットから意識が戻る。
 南沢は、彼に向かって首を傾げた。

「まあ君のお守りもそれなりに楽しかったよ」
「そう」
「でも君は好きになれなかったな。僕と同じ感じするし」
「嫌だな……。なんでそうなるんだよ」

 足立はにやりと笑ってみせ、そして南沢に向かってビールの缶を投げ渡した。

「君ともあと少しでお別れだねー清々するよ」

 受け取ったビールを見つめていると、やがて寝息が聞こえてきた。
 壁に凭れたまま、だらしなく足立は眠っていた。
 酔っ払いめ……。
 南沢は毒づきながら、テキストに向き直る。
 「酔狂」という文字が目に入った。
 今まさに、それを見た気がする。この漢字は絶対に忘れないだろう。







P4アニメ化ということで…。
ちなみに2年生沢です。
4主だけでなく、足立も何周かしているという世界で。
以前からこいつら似てるなーと思っていたら、月山国光の下衆沢が足立と完全に被るようになったので。
南沢さんは上手く立ち回って、左遷をされるという事はなさそうかな。

11/10/01 初出

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