01
君が夢に現れるのはそう珍しい事でもない。むしろ僕を構成する必要不可欠な存在なのだから当然だ。
だからこそ。それ故にあの夜見た夢はひどく甘く、ひどく恐ろしく。初めて眠れない夜を過ごした。
「君は僕が従うのは当然だと思ってる」
「違うのか?」
足を組み換え頬杖をつき、小さく見下したように笑う。その血筋故か生まれもってのものか彼には尊大な態度がよく似合う。
ふ、と。夢で見た彼の面影が重なって目眩を覚えた。
強い光りを宿す眼は潤み、何にも頼らない腕は縋るように絡みつき。毒ばかり吐く唇はただ甘くあまく僕を呼ぶ。
思い出せば巡る血は熱く、現実の彼に手を伸ばしそうになる。その手を強く握りしめることで堪えるけれど、きっと彼にはそんな僕の葛藤もお見通しなのだ。
「君も僕を好きだと言ったのに、どうして僕以外を求めるの」
僕だけを見てほしいのに。
僕だけを愛してほしいのに。
(僕、だけを)
僕には君だけなのに。君には僕だけじゃないなんて許せない。
その眼を抉ってしまおうか。手足を千切ってしまおうか。胸を裂いて奥深くに宿る心を引き摺り出せたなら。
「お前が俺を好きだと言ったから、俺の内側に置いてやったのに」
ゆるりと立ち上がってこっちへ歩いてくる。ただ微笑む彼がとても怖かった。
吐息がかかるほど近くで視線を絡める。笑っているのに、見詰めるスカイブルーは両の頬を包む手のひらよりも冷たい。
「勘違い、するな」
震えて上手く噛み合わない歯がカチカチと音を発てる。口は勝手に掠れたごめんなさいばかりを繰り返した。
冷たい手が頬を滑り落ちる。右手だけは爪を立てて、皮膚の裂ける音を発てながら。
「別にお前がキライなわけじゃないんだぞ」
白い指を伝う血はそのままに、僕の頬についた三本の赤い線を一舐め。ぴりりとした痛みが走る。
「お前は俺のものだけど、俺はお前のものじゃないだけのことだ。分かったか?」
返事をしたいのに渇いた喉からはもうごめんなさいとも、分かったとも出て来なかった。代わりに錆び付いたかのように動かない首を必死に軋む音を聞きながら一度縦に振った。
「よくデキマシタ」
「…トラ、ン、クス、くん」
漸くいつものように笑ってくれたから、僕はまたごめんなさいと繰り返し、バカみたいに泣き出した。
箱庭のカミサマ
(彼に見放されたら、きっと僕のすべてはそこで終わる)
終
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