短編 | ナノ


面倒なことは嫌い。だって、ほぼ確実に変なことに巻き込まれるから。だから首領に面倒事がありそうな仕事は勘弁して下さいね、って云ってるのに。なのに……


『ほんっと勘弁してくんないかなぁ!?』

「あっはは!御免御免!」

『謝ってすんだら警察は要らないんだよ莫迦!!!』

「あっ風香はここを真っ直ぐね。私は左に曲がるから」

『へっ?』

「じゃっ!」


どうやら太宰は二手に分かれたかったらしい。それもそうだ。何故なら、真っ直ぐ進むのは敵を引きつけるルートだからだ。彼奴絶対いつか殺す。


『マジ巫山戯んなよコノヤロォォォ!!』



***



敵を上手く撒いたあたしは何時もの店に来ていた。そこには案の定太宰がいて、殴りかかったあたしは悪くないと思う。
どうやら今日はあたしが最後だったらしい。織田作も安吾も何時もの場所に座っていた。


「今日は随分と遅かったな」

『太宰に裏切られた』

「違うよ、逃げ道を指示しただけだよ」

「どうせ太宰くんに嘘でもつかれたんでしょう」

『そうそう。非道いよね、太宰って』

「ちょ、違うから!安吾は何で私を信じてくれないのさ!」

「ヒントは日頃の行いですかね」

「…成程。私の日頃の行いが良すぎるから安吾は敢えて風香を信じてるんだね?」

『違うだろ!』


そんな他愛もない話をしながらマスターに飲み物を頼む。走ってきたせいか、喉がカラカラだ。麦茶をお願いした。


『今日は普通の仕事の筈だったんだよ。なのに何故か追加の敵が現れてさ、それでどうしようってなってたら太宰がここを真っ直ぐ進んでねって』

「云ったねェ」

『でも太宰のことだからあたしを囮に使うんだろって思ったよ。だから別のルートで行こうとしたよ。間に合わなかったよ!!』

「それは御愁傷様だねェ」

『誰のせいだっつの』

「誰だろうねェ」

『お ま え だ よ !』


ぐいーんと彼の両頬を引っ張る。おお、意外と伸びる。


『それで、2人の今日の仕事は?』

「ちょ、いい加減離してよ…」

「何時も通りだ」

「アレ織田作無視!?」

「猫の捜索、掃き掃除、夫婦喧嘩の仲裁…とかか?」

「私も何時も通りですね。特に話すことでは有りませんよ」


相変わらず大変そうだねェと呟けば、君達に比べればどうってことありませんよと云われた。まァそうだろうね!


『…太宰のほっぺたって気持ちいいね。伸びるし』

「嬉しくないんだけれど。あと、そろそろ離してくれ給え」


ふと、思ったことを口にすれば、織田作と安吾も興味深そうに此方を向いた。


「そうなのか?」

「幹部殿の頬を触れる日が来ようとは」

「私は許可していないんだけれど!?」


どれどれ…と手をワキワキさせながら近づいてくる織田作と安吾に危険を感じたのか、太宰は後ろに下がろうとしていた。


「ちょ…っ!?」

「おお、本当だ」

「気持ちいいくらい伸びますね」


捕まってしまった太宰は、2人に頬を伸ばされていた。正直めっちゃ面白い。


「2人共伸ばしすぎだから!それと肩震わせて笑ってる風香には私からとっておきのプレゼントがあるから」

『嫌な予感しかしないんだけど』

「織田作!風香の頬の方が気持ちいいし柔らかいし伸びるよ!」

「そうか。じゃあ…」

『一寸待って嘘でしょ!?』

「太宰より気持ちいいんだろう?伸ばしてみたい」


伸びない伸びない!と云っているのにジリジリと此方に向かってくる織田作。そしてあたしの後ろは壁で…逃げ場所がない。


「…嗚呼本当だ。太宰も気持ちよかったが、風香の頬も気持ちいいな」

『あうー…』


織田作がみょーんと頬を伸ばしていると、安吾も興味を持ったのか近づいてきた。そして右頬を織田作、左頬を安吾が弄るという可笑しな構図ができた。
ちらりと太宰の方を見ると…嗚呼矢っ張り、太宰の思惑通りになってしまったらしい。にやにやしている。そして更に太宰は私も参加する等と呟いた。太宰に頬を伸ばされる?冗談じゃない。屹度彼は力強く伸ばすに決まっているのだ。


「ちょ、如何して私が近づくと逃げようとするの!?」

『太宰は恐い!裏がありそう!』

「非道い!私は黒いことなんて微塵も考えていないよ?」

『御免信じられない』

「ええ〜…」


非道いなぁ、と呟く太宰だが、あたしが今まで受けてきた仕打ちを考えれば当然のことだと思う。
まァ、後ろには壁があり両脇には織田作と安吾がいるのだから、逃げる場所はないのだけれど。


「観念しろ風香」

「幹部殿が触りたいらしいので」

『う…裏切り者ーーーー!!!』


このあと太宰に捕まり頬を伸ばされたのだが…まァ、察してほしい。





いつも通りの馬鹿騒ぎ
(微笑ましい光景ですね)
(此れの何処を見てそう思ったのマスター!?)
(麦茶です。お待たせしました)
(…有難う)


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いつかは連載したいと思ってるんです…。
さんこいちが尊くて黒の時代は何回も観てます読んでます。シリアスも好きだけど3人が揃うとどうしてもギャグが書きたくなる。書いててとても楽しかったです。


title:空を飛ぶ5つの方法

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