朝。探偵社に出勤すると昨日自分の机に置いておいたはずのあるものがなかった。あたしは犯人であろう人物のところまで行き、詰め寄る。
『ねェ太宰!なんでここに置いてあったお菓子がないの!』
「なんで私に云うのさ…乱歩さんじゃないの?」
『貴様その手に持ってるお菓子はなんだ』
「あっ」
太宰は手に持っていたお菓子をさっと机の中に仕舞うとなんでもなかったかのように微笑んだ。
『この野郎あたしの唯一の楽しみを奪いやがって!』
「お菓子を食べることが楽しみって…そのうち太るよ?」
『五月蠅い!いいから返せ!』
「ほれほれ取ってみなさいよ〜」
机の中から食べかけのお菓子を出した太宰は、手に持ってそのまま上にあげた。身長が181cmの太宰に対してあたしは165cm。どう考えても届かない。太宰の胸に左手を置き、右手を伸ばし目いっぱい背伸びしてるのに届かないとかコイツ巨人か!
あっやばい足も腕もプルプルしてきた。その時、「あのぅ…」と頼りなさげな声が聞こえてきた。
『ん?、あ』
「え」
声に反応しそちらを向くと、まあバランスを崩して仕舞う訳で。太宰を押し倒す形になってしまったけれど、お菓子は取り戻せたしまァいいか。
「だっ太宰さん大丈夫ですか!?」
『太宰の心配はいらないよ。それより君、新人くんだね?もしかして噂の人虎かな?』
よっこいしょ、と太宰の上から退く。普段から自殺だのなんだのほざいてるんだ、頭を少し打ったくらい平気でしょ。
「あっはい!中島敦といいます!よろしくお願いします!!」
『やばい。かわいい』
「はい!?」
『あ、あたしは日比野風香。よろしく〜』
背はやっぱり高いけれど、純粋そうで、可愛らしい顔立ちで、保護欲が掻き立てられる。要するにめちゃくちゃ可愛い。
敦を抱き締めようと思い腕を広げたら、腕を後ろに引かれた。腕を引いたのは太宰だった。そのままぽすっと彼の胸に収まる。
「ところで風香…君は何時になったら私と心中してくれるの?」
『しねぇよ』
「えぇ!?前はしてくれるって云ったじゃない!」
『云ってないけど!!?』
え、云ってないよね?云ってないよね!?なんか不安になってきたんだけど!
『国木田ァ!あたし太宰と心中したいなんて云ってないよね!?』
「知るか」
『冷たい!』
国木田はあたしの言葉に反応こそしてくれるものの、興味はないというように此方をチラリとも見なかった。悲しい。そして極めつけは「仕事しろ」の一言で会話を終了させた。悲しい。
『ほんとはこのお菓子、敦にあげようと思って買ったんだよー』
「え、そうなんですか?」
『そうなの。新人が入ることは太宰から聞いてたからね。でもあたし、昨日横浜に戻ってきたばっかでなんにも用意してないからとりあえずお菓子でもあげようかなって』
なのに食べやがって…と太宰の脇腹を小突く。
「いやぁ〜、まさか敦くんの為に買ってくるとは!風香のお菓子だ食べちゃえ、と思った私は反省したよ。少し」
『ちゃんと反省しろよ』
「まあでも食べたのは風香の分だけだから。敦くんの分はほら、ちゃんととってるよ?」
『この際食べかけでもいいから寄越せ』
「ええ〜?しょうがないなァ〜風香は」
『マジ殺す』
太宰に飛びかかろうとして、敦に云うべきことを云ってないと思い出した。敦に向き直り、手を差し出し云った。
『──武装探偵社にようこそ!』
初めまして新人くん
(あの…国木田さん…)
(太宰と風香は恋人同士ではないぞ)
(え、そうなんですか!?…ってなんで僕の云おうとした事が判るんですか!?)
(顔に書いてある)
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文ストで探偵社に風香がいたらというお話でした!太宰と風香は付き合ってはいないものの互いが大事、みたいなそんな関係です、はい!ほんとは谷崎くんとか乱歩さんとかも出したかったんですけど無理でした…乱歩さんは名前のみの登場です!
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