「ほらぁ、血飲まないと」
『……黙って』
「やれやれ。風香ちゃんはガンコだなぁ」
『…なんとでも』
血が飲みたい。その感情を抑えるように胸元のコートを固く握る。
「地下では飲めないんだよ?ここで思う存分飲んでおかないと」
『…アンタは普通に飲んでたでしょう』
「あれは特別。ミカ君がどうしてもって言うから」
『…別に、どうでもいいけど』
「冷たいなぁ」
早く、早く帰りたい。帰ってミカに会いたい。そんな思いを殺しながら、あたしとフェリドは与えられた任務を遂行していた。
***
今回与えられた任務は、以前と同じで、できるだけ子供を保護してくるというものだった。保護、と言えば聞こえはいいが、実際は吸血鬼達が血を集めるために子供を誘拐しているようなものだった。
クルルに血を飲まされ、人間でなくなったあたしの身体は、ニンゲンの血を求める。嫌だ、嫌だ。あたしは人間なのだ。血は、飲まない。そう自分を律する。「強情だなぁ」とフェリドの苦笑が聞こえる。
『早く、帰ろう。もう、ここには用はないでしょ』
「そうだねぇ。子羊ちゃん達は思ったより集められたし、もういいでしょ」
帰ろうか、と伸ばされる手を突っぱねる。悲しいなぁ、なんて言うフェリドは無視だ。
帰ろう。早く帰って、ミカに抱きつこう。そして、頭を撫でてもらいたいなぁ。抱きついたらきっとびっくりするだろうけど、きっと、ミカなら許してくれる。ああ、早く、早くミカに会いたいよ。
「なに…してんだァァァ!!!!」
『え…』
目の前の、この少年は、もしかして──
「子供達を返せ!吸血鬼!」
『ゆう…?』
黒い隊服──月鬼ノ組の──をはためかせ、彼は…優は、あたしの前に現れた。
ああ、優、優だ。会いたかった。会いたかったよ。
「……風香?」
『…うん、久しぶりだね、優』
「お前…なんで……なんで…生きて…」
周りの、おそらく仲間であろうニンゲンが、優を護るように立つ。ああ、腹立たしい。なんでお前らみたいな弱いニンゲンが優の傍にいるの。なんで、あたしじゃないの。なんで、ミカじゃないの。
優はあたしの横のフェリドを見て、ようやく状況を把握したらしい。──あたしが、もう、優と同じ存在ではないことを。
「風香…なんで…お前…なんで…っ」
『…ごめんね』
「い、行くな!!」
「ちょ、優さん!?」
これ以上近くにいたらダメだ。そう思い背を向けると、パシリと手を掴まれた。そして、そのまま流れるように抱きしめられた。
『ゆ…う』
「行くな。行かないでくれ」
縋るように、優は呟く。ぎゅうう、と抱きしめる力が強くなる。いつの間にこんなに力が出るようになったの、なんて場違いなことを考える。昔は、あたしの方が力強かったのになぁ。
『優』
「なん、っが…!?」
『大好きだよ』
首に手拳を入れ、気絶させる。そして、彼の“仲間”の元に投げる。ピンクの髪色の奴がうまく受け止めた。安心した、そのまま落としたら、彼らを全員殺すところだったから。
『…じゃあね、優』
「、待ってください!」
『……なに』
「!」
薄い紫色の髪をした女はあたしの出した殺気に一瞬怯んだが、すぐにこっちを真っ直ぐ見た。ああ、嫌いだ、その目は。大好きで、大嫌いな、真っ直ぐな瞳。
「あ…貴女は、優さんの…」
『家族だよ』
なんなんですか、と続くはずだったであろう言葉を遮り、紡ぐ。
そう、家族だ。たとえあたしとミカが人間でなくなったとしても、あたし達は、家族なのだ。家族だと、信じていたい。
『用件はそれだけ?』
「……」
『そ』
ならもうここに用はない。もう一度だけ振り返り、優を見る。大切で大好きな彼を。次会った時は、完全に敵同士だなぁ、なんてことを考える。嫌だなぁ。優とは、戦いたくない。
「わ…私達を、殺さないんですか」
『優がそれを望んでいないから』
「それって…」
『次会ったときは容赦はしないから。優以外は、全員、殺す』
そう言って、今度こそ本当に立ち去る。
次、なんて来なければいいんだ。そしたら優は殺されずにすむ。優が悲しまずにいるのなら、それが一番なのだ。
──クルルから帝鬼軍との大戦争を始めると告げられたのは、それから一週間後のことだった。
残酷なこの世界で生きる意味
(戦争になんの意味があるのさ)
(優はどうなるの)
(あの子が生きていないのなら、あたしに、この世界で生きる意味なんてないじゃないか)
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終わセラで吸血鬼主な風香さんでした!吸血鬼にしたらもうとことんシリアスを貫きたい←
もしこの物語にオチをつけるなら、ミカと優と三人で平和に暮らすっていうのにしたい。最後はハッピーエンドがいいです。
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