短編 | ナノ


あたしには家族と呼べる人がいない。なぜなら、両親らしき人達に虐待をされているからだ。痛い。でも誰も助けてくれない。あたし、殺されるのかな。

次に目が覚めた時、目の前には知らないおばさんがいた。どうやらあたしは捨てられたようだ。不思議と心は痛まなかった。

ここは百夜孤児院というらしい。まだできたばかりで、あたしが初めての捨て子らしい。


数年が経つと、孤児院の子供たちも増えてきた。同年代のミカエラ、という子も入ってきた。ミカと呼んでくれと言われたので、これからはミカと呼ぶことにする。
それから少しすると、こんどは優一郎という子が入ってきた。ミカとは違い少しヤンチャな性格のようだ。誰とも馴れ合う気はないとか…そんなのここでは通用しないのに。


『初めまして、優一郎くん。あたしは百夜風香。気軽に風香って呼んで』

「僕は百夜ミカエラ。ミカって呼んでよ」

「俺に馴れ馴れしくすんな!誰が呼ぶか!!」

『あたし達は優って呼ばせてもらうね』

「は!?」

『だって優一郎って長いし面倒くさい。だから優って呼ぶ。いいでしょ?』

「よくねぇよ。俺はお前らと馴れ合う気なんて――」

「じゃあ僕は優ちゃんって呼ぶ!よろしく、優ちゃん」

「だから〜…」


優は頭をガシガシとかいて「勝手にしろ」と言った。

それからは毎日、優やミカ達と遊んでた。年上だったあたし達は、年下の子供達の面倒を見ていたりいろいろしていた。
そんな時だった。吸血鬼が孤児院に攻め込んできたのは。先生が死に、12歳以下の子供達は吸血鬼に連れていかれた。そして毎日血を吸われていた。家畜のような扱いだった。いや、彼らからすれば家畜同然だったのだろう。

悔しいと思った。だけど非力なあたしは吸血鬼に逆らうことはできなかった。
逆らえば殺される。もしあたしが殺されたら、子供達はどうなる?きっと動揺してしまうだろう。悲しむだろう。それだけはダメだ。そう思いながら、あたしは毎日を生きていた。

ミカが外に出る地図を持ってきたのは、そんな時だった。
ミカに頼りすぎてて申し訳ないと思ったけれど、お礼は今度ちゃんとしよう。そう思い、子供達の手を引き地図を頼りに走った。

大広間、のような場所に出た。ここを抜ければ外に出られる。みんなで、外で暮らせる。そう思った時だった。


「あは〜」


聞こえるはずのない声が聞こえてきたのは。


「待ってたよ、哀れな子羊くん達」


なんで。どうして。ここに貴族がいるの。
どうして彼は、あたしの家族を殺していくの。
やめて。やめてよ。


「忘れないで、風香、優ちゃん。僕らは、家族だ」

『ミカ…何言って…』


ミカは優から拳銃を奪い発砲した。だが弾丸は貴族に当たることなく、ミカの腹を貴族の手が貫通した。もう一発撃とうとするミカの右腕を切断する。

何がなんだかわからなくなってきた。

気づいたら優が貴族に発砲していて、貴族は倒れて、ミカを助けようとして…ミカが大声で叫んだんだ。


「早く行けよ!バカ!!」

『や…やだ…ミカ…やだよ…っ』

「……っ」


優はあたしの手をとって走り出した。

走りながら、あたし達は泣いた。


『っ、うあ、ぁぁぁぁああぁぁ!!!』


外に出たあたし達は、日本帝鬼軍所属の一瀬グレンに拾われ、月鬼ノ組に入ることになった。





そんな未来なら私はいらない
(確かに月鬼ノ組での生活は楽しい)
(けれど…)
(ミカのいない世界なんて、そんなもの、)
(あたしは、いらないよ)


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ミカと優の幼馴染みな風香さん。
フェリド様登場のあのシーンに風香がいたらという妄想。反省も後悔もしていません!!


title:秋桜

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