短編 | ナノ


『っぎゃああああああああああ!!』

「待てェェェ!!」

「お前を喰わせろぉぉぉ!!」

『何コレ何コレ何コレェェェ!!』


あたしは今必死に逃げている。それは、化け物からである。
こうなったのは、先刻の事であった。

確か、あたしは攘夷グループのシマに乗り込んだんだ。どいつも弱い奴らばかりで、一時間と経たずに仕事は完了した。
そのグループのシマは山奥にあった。仕事も終わったしさて帰ろうと足を進める。だがいつまで経ってもかぶき町につかなかった。
すると突然まぶしい程の光がやってきた。急な事だったので目を閉じてしまう。次に目を開けたら知らない町だった。電柱の紙には「浮世絵町」と書いてある。どこだよ。
そしてぶらぶら歩いているうちに日が暮れてしまい、冒頭に至るのである。


『ちょ…マジでなんなの…』


化け物は…天人ではないだろう、多分。天人とは違う感じがする。それもこれも勘でしかないんだけれど。


「ヒヒッ 見ーつけた」

「生き肝を喰わせろ」

「お前はうまそうな匂いがするな…」

『それって褒めてんの?それとも貶されてんの?』


まあどっちにせよ、負けるつもりはないのだけれど。


『来るなら来な。カタつけてやる』


「「「ウオオオオオ!!」」」


一瞬の、出来事だった。


『…弱すぎだろ』


辺りには化け物の肉片が転がっている。そしてスゥ…と音も立てずに消えた。…………え、消えた?消えるモノなのコレ。ホント不思議。ってか恐い。


『…………』


そして、またもや感じる殺気――いや…妖気、か?まあどちらにせよ、さっきのよりも大量な数で。こんな所で暴れるのはさすがにまずいと思ったあたしがとった行動はただ一つ。
逃げる。


「「「待てェェェ!!」」」


案の定追いかけてる化け物。なんで必死になってんの。なんでそんな一人にしつこくつきまとうの。そーいうのは嫌われるってお母さんに習わなかったの?



***



『ここまで来ればいい…かな?』


あたしが足を運んだのは人気のない大通りだった。大通りのくせに人気がないというのはいささか不思議だがまあよしとしよう。


「ゲヘヘ…おとなしくしろよォ?」

「すぐに終わるからな。ヒヒッ」

「にしても旨そうなオンナだな〜」

「早く味見しよーぜ!」


『……かかってこい、瞬殺してやっから』


いつもは優しい風香さんでも怒るときはあるんだぞ。つーかお前ら好き勝手言い過ぎだろ。旨そうな匂いとかなんだよ。こっちは毛程も嬉しくないんだよ。



キィィン…ッ



『うぇぇっ!?』


コイツらは化け物なのか、そうじゃないのか。見極めるために攻撃をしないでおいたのだが、相手はそうは思っていないらしくて。生き肝をよこせ、とかまだ言ってやがる。


『アンタらは何者なの?』

「妖怪さ」

『は…?』


訊いても答えてくれないだろうと思い、ダメ元で質問してみたらあっさり答えた妖怪A。……………え、妖怪?


『妖怪って…人に悪さする、あの妖怪?』

「あァそうだ」

『(なんだ、幽霊じゃないのか…よかった)』


内心ホッとしたのは、ここだけの話だ。


「そう…俺達(おれたち)は人間(おまえら)に悪さをする」

「即ち…人の生き肝を喰らうんだ」

『なんでだよ』


悪さ=生き肝を喰う、ってどんな方程式だよ!?どんだけ恐ろしいの!?え、ちょ、帰りたい!
瞬殺してやるなんて言ったのはいいけど、いかんせん相手の数が多すぎる。倒しても倒してもキリがない。あたしの傷が増えていくだけだ。


『クッソ…』

「さっきの勢いはどうしたんだよ?」

「このままじゃお前…死ぬぞ?」

「バッカお前 殺すために攻撃してんだろーが」

「それもそうだな」


ハハハッと笑う妖怪共。何コイツらクソウザいんだけど。


『っのヤロ…ッ』


大量もあまり余っていない。だけどあたしをバカにしたコイツらを許すことはどうしてもできなくて。力を振り絞って攻撃しようとした瞬間、頭上に黒い影が現れた。

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