ネタ

prologue

目を閉じて思い出すのは、決まってあの光景だった。


家族が吸血鬼に殺される。


いつも一緒だったのに。
大切な、大切な、人達だったのに。
家族、だったのに。


吸血鬼は、いとも簡単に、彼らの命を奪っていった。


「風香…!優ちゃんを…頼んだ、よ…」

『ミ…カ…』

「早く…行って…!」

『でも…ミカが…みんなが…!』

「いいから行けよ!バカ!!」


「――ミカァァァァァ!!!」








『日本…帝鬼軍?』


『吸血鬼、殲滅部隊…』


『復讐とか、そーいうの…ミカは望んでるのかな…』





いつもあの夢を見ていたけれど、グレンやみんなと出会ってその夢を見ることは少なくなった。





「風香ー、部屋入るぞー」

『わーっ!?まだダメだよグレン!?』

「はぁ?なんでだよ。こっちは急用が…」

『着替えてんだよ時間考えろバカ!!』





毎日が楽しくて。





「風香さん聞いて下さいよ〜。優さんがね、優さんがね〜」

「シノアてめっ 風香には言うなっつったろ!」

「え〜?そんなこと言いましたっけ〜?」

「つい数分前のことだろーが!!」

「お前達うるさいぞ!」

「まったくだ」

「あ、あははー…」





楽しくて。





「逃げてばかりじゃ訓練になんねぇぞ!」

『ちょっとくらい手加減してくれてもいいんじゃないかな!?』

「それじゃ訓練になんねぇだろうが」

『か弱い乙女になんてことを!』

「か弱い乙女?そんな奴どこにもいねぇけど」

『死ねグレンンン!!』

「乙女はそんなこと言わねぇよ…」





楽しくて。





『優!』

『ゆうー!グレンがいじめるー!』

『シノア…セクハラやめて…』

『君月てめっ ぶっ殺したろか?ああん?』

『与一かわいい…天使か』

『よろしくね、みっちゃん♪』





だから、これは罰なのだろうか。

今の家族は月鬼ノ組のみんなだと。
だから昔の家族は忘れろと。
そう言ったグレンを信じた、罰なのだろうか。





『ミ、カ…?』


『なんで…生きて…だって…そんな…だって…』


『もう、人間じゃ、ないの…?』





死んだはずのミカが生きていた、なんて。





『殺してやる…絶対…吸血鬼おまえらを殺してやる!!!』


『復讐なんてしても意味ないかなー、とか考えてたんだけど…やっぱ無理だわ』


『大切な家族を目の前で殺されてさ、しかもその内の一人は吸血鬼にして生き返らせたとか…笑えないわ…』


『百夜孤児院のみんなのことは忘れられないよ。だって、初めてできた、あたしの…家族だもん』





そして少女は決意する。





『ミカを…取り返す』

『ミカが吸血鬼になっていたとしても、あたしはアイツを救うよ』

『だって、家族だもん』









『実験体でもなんでもすればいい』

『痛みなら我慢できる。苦しみなら我慢できる』

『それでミカが救えるのなら、構わない』

『それでまた、優とミカと三人でいられるなら、構わない』

『どんなにつらいことだって、苦しいことだって、我慢するから』

『だから…だからさ、優にはこんなことしないで』

『優は優しい子だから。家族がこんなことされてるって知ったら、悲しんじゃうから』

犠牲モルモットはあたし一人で十分でしょう?』