明日は一日練習だから弁当忘れんなよ!って昨日岩泉さんが言ってたっけ。そんな重要なこと早めに言ってくれないと俺忘れますよ。早すぎても忘れるけど。
上の文章からわかると思うけど、俺は弁当を忘れた。あまり動かない俺でも、さすがに腹は減るわけで。どーするか…金田一にでもたかろうかな、なんて考えていると体育館の扉が開いた。突然のことに、及川さんも監督もびっくりしている。
『英ぁ!弁当忘れたでしょー!』
「なんでここにいるの」
『お母様に英が弁当忘れたから届けてきてあげてって頼まれた』
「連絡くれればよかったのに」
『英をびっくりさせたかった』
「俺よりみんなの方がびっくりしてるけど」
ホラ、とみんなの方を向かせる。
あ、ほんとだー、と彼女――風香は視線を彼らの方に向けた。
「く、くくくく国見ちゃん!?」
及川さんが焦ったような声出して俺の肩を抱き、小声で話しを始める。周りにはいつの間にか花巻さんや松川さんもいた。
「誰!?あの子!!彼女!?国見ちゃんの彼女!?」
「及川うっせーよ。聞こえんだろ」
「マッキーひどい!」
「で?どうなの、実際」
「どうもこうもないです、彼女じゃないんで」
「お母様とかなんとか言ってたじゃん!なにそれ同棲してんの!?」
もはや小声ではない。岩泉さんが睨んでますよ。声のボリューム落とさなくていいんですか。
『同棲って…何言ってるんですか…?』
「初対面の子にドン引きされた!?」
「そりゃするだろww」
「むしろしない方がおかしいわww」
「チョット!まっつんもマッキーも笑いすぎ!」
後ろで岩泉さんがボール構えてるんですけどいいんですか。あ、投げた。及川さんの頭にクリーンヒット。「むげふっ!!」すごく痛そうだ。
「岩ちゃんなにすんの!!」
「うるせえ」
「ひど!」
「困ってんだろお前のせいで!」
「俺のせいじゃないよ!及川さんにボールぶつけた岩ちゃんにドン引きしてるんだよ!」
ギャーギャーと阿吽コンビはうるさい(騒いでるのは主に及川さんだけど)。
『……英、あたし帰るね』
「めんどくさくなったでしょ」
『うん。じゃ、部活頑張ってね』
「ん。弁当ありがと」
そのまま帰ろうとする彼女の肩をつかみ、顔をずいっと近づける及川さん。口論してたんじゃないんですか。
「国見ちゃんの彼女さん!名前教えて!あ、ちなみに俺は及川徹!青城バレー部主将で三年!好きな食べ物は牛乳パンだよ!よろしくネ☆」
『…………(なにこの人めんどくさ。てかうるさ)』
「…及川さん勘違いしてますよ」
『……国見風香デス。英の姉です彼女じゃないです。よろしくしたくないのでサヨウナラ』
「よろしくしたくない!?」
「「「ブッフォww」」」
「岩ちゃんマッキーまっつん聞こえてるよ!!」
ゲーン!と効果音を出した後に岩泉さん花巻さん松川さんに笑われ、ギャース!と叫んだ。……うるさい。
『……え、これいつ帰ればいいの』
「さあ」
そう答えたのはいうまでもない。