災難のあとには災難が待っている


結局、あたしはネカフェに泊まった。財布と携帯はあったしまあいいだろうって。つっても携帯は向こうの世界には繋がらないんだけど。
あとはなぜか椿がなかった。懐に翡翠は入っていたけれど、やっぱり腰に差してないと落ち着かないわー…。


『…これからどーすっかな』


昨日あたしが着てたのは真選組の隊服だった。向こうじゃあれがあたしの制服だったけど、こっちのケイサツの服はどうやら違うらしい。
とりあえずは上着に短パンといった若者らしい服を買った。

それで“池袋”という街を歩いているのだが…いかんせん人が多い。暑苦しい。……そーいや昨日のイザヤとかいう奴はよくこんな暑いなか真っ黒のコート着てられるな。ある意味尊敬できるよ。

そんなことを考えていたら、ドンッと肩に衝撃が走った。


「オイねーちゃん」


ねーちゃんって誰に話しかけてんだろ。こんなに人が多いんだから肩とか叩かないと気づかないんじゃね?


「聞いてんのか?オイ」

『……え、あたし?』

「ふざけてんのかお前?俺らに今当たっただろーが!」

『“俺ら”?いやあたしが当たったのは一人だけだけど』

「んな屁理屈どーでもいいんだよ!」

「ちょっとこっち来いや!」

『えええええ』


むしろ当たってきたのはそっちじゃないか。
そう言おうとしたけど、なんか余計話がややこしくなりそうなのでやめた。



***



あたしが連れてこられたのは路地裏だった。
あーやだやだ。やっぱどこの世界でも路地裏って危険なんだねぇ。


「ねーちゃんさぁ、俺らに何か言うことない?」

『なにもないけど』

「ふざけてんのか!?」

「謝れっつってんだよ!」

『Pardon?』

「パ…?なに言ってか知らねーけど、お前が俺らにぶつかったんだから謝れよ」

「俺らやさしーからさ、謝ったら見逃してやってもいいぜ」


どこが優しいんだ。
女一人に男多数。しかも路地裏。あたしは壁際に追い込まれてる。さてさてこれのどこが優しいんでしょーか?


『いやいやおにーさん達さ…別にあたしぶつかったわけじゃないし、そもそもそっちがぶつかってきたんでしょ?ならあたしに非はないじゃん』

「なら金だけ出せ」

「いや、もう全員でヤろうぜ」

「おっ 賛成!」


なにが賛成だふざけんな。


『………』


いい加減、我慢の限界だ。
そもそもこっちは昨日散々な目に合っているんだ。なのに今日もこんな仕打ちとか?あたしどんだけ神様に嫌われてんの。むしろ世界があたしを嫌ってる的な?……いや、中二臭いからやめよう。


『アンタらさァ、いい歳こいて恥ずかしくないの?』

「あぁ?」

『いい歳してチンピラ紛いなことして金巻き上げようとしたり強姦しようとしたりしてさぁ』


恐い、というわけではない。むしろコイツらは雑魚だ。簡単に勝てる。ただそれをしないのは、面倒だからだ。翡翠を木刀に変え戦うことはできる。だが、勝ってそのあとはどうすればいいんだ?ただでさえここは知らない街だ。向こうでは許されていたことがここでは許されない、とかだったら洒落にならない。
でも、やっぱりコイツらを黙らせる一番の方法は木刀で殴る。それだけだよなぁ…。