障子を開けて部屋に入ったら不機嫌さMAXの土方さんがいた。
だからあたしは本能に従って瞬時に障子を閉めただけだ。それなのに何で殴られなきゃいけないんだろう。


「いや、何でじゃねーよ!風香テメェ早く始末書出せっつってんだろーがァァァ!!」

「あー…あったね、そんなもの」


確かこの前、攘夷志士相手に暴れ回った挙句、逮捕はできたものの民家を何軒か壊しちゃったんだよね。主に総悟が。


「つーか俺はお前だけでなく総悟とあげはも呼んだはずなんだが…」

「あの二人はきっとサボりだよ」

「そう言って前回は総悟とお前がいなかったよな!?総悟に至ってはいっつもいねぇな!!ナメてんのかあのヤロォォォ!!」

「ちょ、あたしに向かって抜刀すんのやめてくんない!?」


刀を持ったまま部屋を出て行こうとした土方さんを宥めたあたしはサボっているバカ共をここに連れて来い、という命を受けた。


「…つまりあの二人を連れてこればあたしの始末書はチャラに「なるわけねーだろ」…チッ」


それってあたしの働き損じゃないか。マジ死ねよ土方コノヤロー。
土方さんには聞こえないくらいの声で言ったはずなのに殴られた。ホント地獄耳だなこの人。



***



あたしが土方さんの部屋を出て真っ先に向かったのは縁側だった。
ここは土方さんの部屋からも離れているうえに、死角になっている。サボり場所にはもってこいの場所だった。(かくいうあたしもよくここに来る)


「あ、いたいた」


予想通り、お目当ての人物×2はいとも簡単に見つかった。
一人はいつの間に買ってきたのかコンビニ限定のチョコレートパフェを頬張っている。もう一人はその隣で人をバカにしたようなお馴染みのアイマスク着用で昼寝。
仮にも警察がこんなんでいいのかと思うが、何を隠そうあたしも普段はこんな感じだ、多分。


『あれ、風香?どしたの?』


今までやる気のなさそうな眼で外を眺めていたあげはがあたしに気付いた。


「どうしたじゃないっつーの。アンタらが来ないせいであたしがとばっちり食らったんだからね」

『ああ、土方さん。本当面倒だよね、あの人。…ほら風香。これでもお食べ』

「マジでか」


チョコレートパフェを平らげたあげはが次に出したのは、んまい棒チョコレート味。しかもお徳用。
あたしは土方さんのことなんかすっかり頭の隅に追いやって、あげはの隣に座った。


「…うん、やっぱり糖分って必要だよね」

『ねー。甘味がなきゃ世の中やっていけないって』

「太りやすぜ」

『「黙れ総悟」』


あたしとあげはがサクサクとんまい棒を頬張っていると、横から声が聞こえた。
いつの間に起きたんだよ、総悟のヤツ。


「それよりいいんですかィ?こんなとこでサボってて」

「それアンタが言う?」

「俺はここで敵が攻めてこないか見張ってんでさァ」

『せめてアイマスク外してから言おうか』


総悟はのろのろとアイマスクを外して、起き上がる。そしてあたしたちの食べているんまい棒を捉えた。


「いいモン食ってやすね、二人とも」

『知り合いにもらった。総悟も食べる?』

「いただきやす」


あげはの言った知り合いってヅラなんじゃないだろうか。アイツいつも逃げる時にんまい棒を煙幕に使ってるし。


「そーいえば風香は何しに来たんですかィ?」

「ん?……えーと、あれ?何だっけ?」

『きっと大した用件じゃなかったんだよ(所詮は土方さんだし)』

「それもそうか」


あげはが悪人面っぽい笑みを浮かべているけど、いつものことだしまあいいか。
あたしは二本目のんまい棒に手を伸ばした。


「お、楽しそうなことしてるなお前ら!」


この真選組の中でも比較的に明るい声音が後ろから聞こえてきた。一番最初に反応した総悟があ、と声を漏らす。
釣られてあたしたちも振り返った。


『「あ、ゴリラ」』

「あれ、今なんかゴリラって聞こえた…」

「気のせいだよ、近藤さん」

『空耳ですよ、近藤さん』

「相変わらず息ピッタリだよね、二人とも」


現れたのは真選組局長の近藤さん。あたしたちを拾ってくれた恩人だ。


「近藤さんも一緒にどうですかィ?俺の隣空いてやすぜ」

『あ、待って総悟。あたし今バナナ持ってないわ』

「え、ダメじゃんあげは。それじゃ近藤さんのエサどうすんの?」

「平気でさァ、風香。俺が持ってやす」

「三人とも完全に俺をゴリラ扱いだよねェェェ!?」


ひどいよ三人とも…、なんて泣いているトップに正直あたしはドン引きだ。
結局近藤さんはブツブツ文句を言いながらも、総悟の隣に座ったのだけれど。



***



「……風香、俺はお前に何て言った?」

「………げ、土方さん」


近藤さんが加わって数分後、背後に鬼を従えた鬼の副長が現れた。


「おお、トシ。お前も座ったらどうだ?最近働き詰めだろう?」

「休みがねーのはそこのバカ共のせいなんだがな」

「あーあ…風香、あげは。土方さんがご立腹でさァ」

「一番の原因はテメェなんだよ!!」

「へェ…なら俺が楽にしてやりまさァ」


総悟はニヤリと笑って、見計らったようにバズーカを放った。そして一言、巡回いってきやーす、と言って去って行った。



「総悟ォォォオオオオオオオ!!」



その後をものすごい形相で追いかけていく土方さん。まあ、いつも通りの光景だ。


『……こっちまで被害にあったんだけど』

「全くだ」

「ガハハハハ!しょうがない奴らだなアイツらは!」


総悟のバズーカのせいであたしたちも所々焦げていた。ほぼ直撃した土方さんは何であんなに元気なんだろう不思議。
そして屯所がちょっと壊れた上、自分はチリチリなのに呑気に笑ってる近藤さんも相変わらず寛大だな。


「局長ォォ!」

「ザキじゃないか。どうした?そんな慌てて」

「いや、アンタがどうしたんですか!?黒焦げですよ!」

『ザキ、近藤さんはどうでもいいから。早く用件言いなよ』

「ちょ、あげはちゃん!?どうでもいいって何!?」

「近藤さんうるさい」

「風香ちゃんまで…!」


あたしたちは近藤さんを押し退けて、ザキに詰め寄る。


「それが…二か月程前に逮捕した攘夷党の残党が今夜、真選組に奇襲を仕掛けようとしているらしく……」

『ふーん……そいつらの隠れ家は?」

「あ、既に見当はついているんですが…何分敵の数が多くて、」

『なるほど。それじゃ行こうか、風香』

「そう言うと思ってた」


徐に立ち上がったあげはがこちらを見た。それに応えるようにあたしはニッと笑う。


「ちょっと!まさか二人だけで行くとか言わないですよね!?」

「そのまさかだよ、ザキ」

『そう言うこと。いいですよね、近藤さん?』

「ああ、任せた」

「局長!」


近藤さんはザキを宥めながら、あたしたちを見て笑っていた。ああ…この人は本当、あたしたちを信頼してくれている。


『「いってきます!」』


二人そろって手を上げて、現場に向かった。



***



「あげはさあ…なんだかんだ言いながら土方さんたちのこと気遣ってるよね」

『そう言う風香こそ』

「……最近、土方さん寝てないみたいだからね」

『総悟もこの間、一人で攘夷志士の隠れ家に乗り込んで怪我して帰ってきたし』

「全員お縄に付いてたけどね」

『近藤さんは優しすぎるし』

「だから居心地がいいんだよね、あの場所は」

『………同感』


攘夷戦争が終わった後、行く宛のなかったあたしたちは近藤さんに拾ってもらった。
幕府は嫌いだけれど、あの場所は嫌いじゃない。
――だから護りたいんだ、真選組を。あたしたちの居場所を。


『…さて、準備はいい?風香』

「もちろん。ちゃっちゃと終わらせて甘味でも食べに行きますか!」


あたしたちは刀を抜いて、扉をぶち破った。







(御用改めである!)
(全員お縄に付いてもらおうか)



title:たとえば僕が



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