劇物?下手物?どっちなの?





「あら、風香じゃない」

『あ、加古さん。こんにち−−』

「どこに行くのかしら」


うふっと効果音がつきそうなくらい妖艶に微笑む加古さん。きっとこんな状況じゃなければ女であるあたしも頬を染めていただろう。だが、今はそんな状況ではない。
なぜなら加古さんはエプロン姿であり手にはこれから誰かに食べてもらおうとしているであろう炒飯があるのだから。


「ちょうどよかったわ。炒飯少し作りすぎちゃったの。よかったら食べない?」

『え、遠慮しときます。ついさっき食べたばかりなので』

「あら残念。でも大丈夫よ。この炒飯、甘いから」

『(意味がわからない…!)』


なぜ炒飯を甘くする必要があるんですか加古さん!?そんな必要ないですよねぇ!?


『あ、あー…でもほら!炒飯って結構お腹にたまるじゃないですか。あたし結構お腹いっぱいいっぱいで』

「そんなに食べたいのね。じゃあ、さっそく行きましょうか」

『(もうほんとなんで年上の人って話を聞いてくれないの…!)』


誰でもいいから助けてほしい。いやほんと誰でもいいから!誰か救世主来て!


「加古さん…と風香さん?どうしたんですかこんなところで」

「あら双葉。これから風香に炒飯を食べてもらおうと思って」

「私もいいですか?」

「もちろんよ」

『ジーザス!!!』


現れたのは救世主ではなく双葉ちゃんだった。この子は加古さんの下手物料理に耐えられる強者(ツワモノ)だ。もう一度言うよ。救世主ではなかった。



***



「はい風香、あーん」


語尾にハートがつきそうなくらいな笑顔でスプーンを口元に差し出してくる加古さん。いやいや笑えないですから。「おいしいですよ加古さん」とか言ってる双葉ちゃんはそれはツワモノだから言えることであってあたしみたいな貧弱がそんなの食べたら死ぬに決まってるんですからほんとやめましょうまじで。
どうせ逃げられないのなら、考えることはただひとつ。

『ど、どうせなら太刀川さんも呼びませんか?ほら、最近レポート溜まってやばいって言ってたんで息抜きに』

「いいわね。そうしましょう」

『じゃあ電話しますね』


−−犠牲者を増やすのみだ。


太刀川さんに約束をとりつけ(加古さんの炒飯を食べるなんて言うヘマはしない)、すぐに彼はやって来た。そしてあたし達を見て一言。


「ごめん俺ちょっと用事思い出したわ」

『そんなのないよね、太刀川さん』

「いや、ほんとまじで急ぎのやつ。ほんとだってこれ。頼むよ。てか風香お前ふざけんな騙しやがったな」

『いだだだだ!頭グリグリしないでー!』

「加古の炒飯なんて聞いてねぇよ帰る」

『加古さーん!太刀川さんいっぱい食べたいって!』

「お前まじでふざけんなァァァ!」

『待って太刀川さんそれガチで痛いやつ』


太刀川さんはあたしの顔を鷲掴みにしてきた。痛い痛いこれ痛いってマジで。
そのあと、あたしも太刀川さんも加古さんに捕まり炒飯を食べることになった。










(加古さん、ちなみに今日の炒飯は何味ですか?)
(太刀川くんのはハバネロカスタード炒飯で、風香のはいちごカスタード炒飯よ)
(あ、やべぇ死んだなコレ)
(聞かなきゃよかった)





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