最強の味方
昨日、二人は朝五時集合って言ってた。だから遅れないようにアラームセットしてきたんだけど……まさかの電池切れ。マジかよ。
『はよー』
「!? 風香、さんっ!?」
『朝は冷えるねー』
「なっ!?なんっ!!〜〜!」
「ゲッ 風香」
『うん、日本語しゃべろうか飛雄。それから田中、ゲッてどーいうことだコラ』
せっかく差し入れ持ってきたのになー、と大きめの声で呟けば田中はコロッと態度を変えた。
『あ、スガさんも来てるー』
「おース、風香」
「あー!昨日のお姉さん!!」
『えーっと、初めましてかな。マネージャーの日比野風香です』
「おれ、日向翔陽って言います!」
『日向ね。よし、練習がんばれー』
あいっス!と目を輝かせた日向はかわいかった。なんかこう…小動物的な。
***
大地さんに気づかれることなく早朝練は終了し、気づけばお昼の時間になっていた。
『あっ やべ。今日部活用の飲み物しか持ってきてないわ…』
「ドンマーイ。ほら、買ってきなさいな」
『一緒についてってくれたりは…』
「しない」
『デスヨネー』
はぁ、とため息を一つこぼし席を立った。
『あれ、飛雄じゃん』
「! 風香、さん」
自販機の前には飛雄がいて、あくびをしながらめざめのヨーグルトを買っていた。
どうしたんスか、いやー 飲み物忘れちゃって…、と話をしているとスガさんの声が聞こえてきた。
「日向はさ、影山を倒したくてバレーやるの?」
へー、日向は昼休みもバレーやってんだ。
「えーっと…影山を倒せるくらい強くなりたいんです。そうすればきっと色んな強い相手とも互角に戦えるし、試合で簡単に負けたりしない。
おれ、もう負けたくないです」
「ふーん…。つまり、今のとこ日向の中で同年代『最強』の位置付けにあるのが影山ってことか」
「いっ…い〜…は、んいぃ〜…」
どんだけ『ハイ』って言いたくないの。
「最強の敵≠セったならさ、今度は最強の味方≠カゃん」
おおー!スガさんいい事言う!
「風香さん、俺そろそろ失礼します」
『あっ あたしも友達待たせてるんだった…。そんじゃまたね、飛雄』
「うス」
***
木曜
午前5時30分
田中が遅刻してきた。それは問題じゃない。二人が、スガさんが来てから15分くらい連続でレシーブをやっているからだ。
もう限界だからこのくらいで、と言う飛雄の言葉を遮るのは日向で。
「まだっ!ボールッ…!!落としてない!!!」
辛いはずなのに。苦しいはずなのに。それでもねばる日向。
そんな日向に飛雄は遠くにボールを打った。
日向の運動能力は中学の時からすごいけど、それとは別に日向には勝利にしがみつく力≠ェある。
苦しい。もう止まってしまいたい。そう思った瞬間からの、一歩。
『!』
上がった…!
そして飛雄はそのボールで、トスを上げた。
でも日向にはスパイク打つ気力なんて…。
『「「(えがお!!?)」」』
日向はスパイクを打った。あんな状態から。あんな嬉しそうに。
「セッターからのトスが上がるっていう…俺達にはごく普通のことが、日向にとっては特別なことなんだろうな」
『…そうですね』
「…おい。土曜日、勝つぞ」
「! あっ ぜェ あたっ ハァ 当たり前どぅぁォェェッ」
『ギャー!日向が吐いたー!』
「水!水持ってこい!!」
掃除が大変でした。