化学変化



試合が終わって、武ちゃんは「……すんごい」と声をもらした。
あ、そっか。武ちゃんは3対3見てないから日向と飛雄の攻撃見るのは今日が初だったね。

そんな武ちゃんのところに講評をききに選手が集まる。


「えーと…僕はまだバレーボールに関して素人だけど…なにか…なにか凄いことが起こってるんだってことはわかったよ」

「?」

「…新年度になって…凄い1年生が入ってきて…でも一筋縄ではいかなくて…だけど、」





「日向と影山は今はバラバラだけど、ちゃんと力を合わせられたらなにか…凄いことになる気がするんです」





「澤村君がそんな風に言ってて、その時はよくわからなかったけど、今日わかった気がする。バラバラだったらなんてことない。一人と一人が出会うことで化学変化を起こす」


化学…変化。


「今この瞬間もどこかで世界を変えるような出会いが生まれていて。
それは遠い遠い国のどこかかもしれない。地球の裏側かもしれない。もしかしたら…東の小さな島国の北の片田舎の、ごく普通の高校のごく普通のバレーボール部かもしれない。そんな出会いがここで…烏野であったんだと思った。
大袈裟とかオメデタイとか言われるかもしれない。でも信じないよりはずっといい。
根拠なんかないけど、きっとこれから、君らは強く…強くなるんだな」


その講評にみんなはポカーンとしている。武ちゃんが我に返ったようにしゃべりだすとみんなも我に返ったようで挨拶をしていた。



***



青城の人達と挨拶を交わしていると、中学の時の後輩に名前を呼ばれた。国見ちゃんだった。


『国見ちゃん久しぶりだねー。背伸びた?』

「なんで青城来なかったんですか」

『あれ?無視?』

「及川さんがウザかったんですよ、1年間くらい」

『え、でも金田一はあたしが烏野行ったこと知らなかったよ?』

「及川さん、暇さえあれば『風香ちゃん烏野行っちゃった寂しい』って言ってて岩泉さんに殴られてましたけど」


マジかよ。


「それより行かなくていいんですか。烏野の人達もう行っちゃいましたけど」

『置いてくなんて薄情な…!じゃあね国見ちゃん!』

「転んでケガしないでくださいね」

『そこまでドジじゃないからね!?』