烏野高校排球部



大地さんが教頭に呼び出されてから30分が経った。
ようやく帰ってきた。


「幸いにもとくにお咎めナシ。謝罪もいらない」

『(ホッ)』

「――が、何も見なかった事にしろ」


やっぱそうなりますよねー!
生徒全員といっても過言ではないくらい承知のことなのにそんな隠す必要あるのか。まあ人間隠しておきたい事の一つや二つあるものだからとやかくは言わないけれど。


「だがお前ら、」

「お前がちゃんととらないからだ、へたくそ。何が去年とは違う≠セ、フザケんな。期待して損した。クソが」

「いちいち一言余計だなっ」

「なぁ。少し…聞いてほしいんだけどさ」


大地さんの声色が変わった。ヤベェ…コレはヤベェやつだ。うわああ超恐ぇ。


「お前らがどういう動機で烏野に来たかはしらない。けど当然勝つ気で来てるんだろ」

「ハイ!」

「勿論です」

「烏野は数年前まで県内ではトップを争えるチームだった。一度だけだが全国へも行った。でも今は良くて県ベスト8。特別弱くも強くもない。他校からの呼び名は――」



落ちた強豪 飛べない烏=B



「烏野が春高≠ナ全国大会に出た時の事はよく覚えてる。近所の高校の…たまにすれ違う高校生が、東京のでっかい体育館で全国の猛者達と戦ってる。鳥肌が立ったよ。――もう一度あそこへ行く。
もう飛べない烏≠ネんて呼ばせない」

「…全国出場を取り敢えずの夢≠ニして掲げてるチームはいくらでもありますよ」

『バッ…!!』

「あぁ。心配しなくても、ちゃんと本気だよ」

「っ!…」


飛雄が息を飲むのがわかった。
大地さんは怒ると恐いんだぞ。気を付けないと。


「その為にはチーム一丸とならなきゃいけないし…教頭にも目をつけられたくないわけだよ。
俺はさ、お前らにオトモダチになれって言ってんじゃないのね。中学の時にネットを挟んだ敵同士だったとしても、今はネットのこっち側同士≠セってことを自覚しなさいって…言ってんのね」

「「!?」」

「どんなに優秀な選手だろうが一生懸命でヤル気のある新入生だろうが、仲間割れした挙げ句チームに迷惑をかけるような奴はいらない」


飛雄ともう一人の入部希望者の顔面に入部届を押し付け、体育館の外に放り出した。


「互いがチームメイトだって自覚するまで部活には一切参加させない」


ワオ、びっくり発言です大地さん。



『……はぁ』


ため息を吐き頭を抱える。なんであんなに単細胞なんだよ飛雄は……!


「いいのかよ大地、貴重な部員だろ。ていうか、チーム≠ニかって徐々になってくんモンだろォ」

「わかってる!が!!」


外では俺が話すだの部活に参加させてほしいだのなんだの聞こえてくる。協力するつもりは全くないらしい。


『あんな状態じゃ練習になりませんよねぇ…』

「ああ、その通りだ。入部を拒否するわけじゃない。でも反省はしてもらう」


「すみませんでした!!」


外から飛雄の声が聞こえてきた。激しい音が聞こえたりしたから飛雄がもう一人の入部希望者を押さえ付けたかなんかしたんだろう。


「日向ともちゃんと協力します!部活に参加させて下さい!!」

「本音は?」


大地さんがドアを少しだけ開け顔を覗かせる。その目に嘘をつけなくなった飛雄は本音をもらした。


「…試合で…今の日向と協力するくらいなら、レシーブもトスもスパイクも全部俺一人でやれればいいのにって思います」

「何言ってんのオマエェ!?」

「何で本当に言っちゃうんだよ本音を!良いと思うよ、そういうの!
でもさ、ボールを落としてもダメ、持ってもダメ、一人が続けて二度触るのもダメ。…って言うバレーボールでどうやって一人で戦うの?」


大地さんはにこっと人当たりのいい笑顔を浮かべピシャリとドアを閉めた。

やっぱバカだわアイツ…。