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テニスボールに書いた『愛してる』(白石×静)



 ───一生懸命な子やな。


 そう思ったのが一番最初。


 ───おいおい大丈夫か?働きすぎやろ。


 心配になったのがその次で。


「昨日テレビで観た映画が、本当に切なくって………」
「俺も、たしか前に観たけど。キミ、ああいうの好きなん?」


 こんな風に、雑談もよく交わすようになって。


「悲恋で終わってたら分からなかったですけど。……はい、好きですよ」
「……使うか?」
「え?」


 差し出したハンカチを見て、きょとんとする表情。


「目ぇ、潤んでるで」
「あ………」


 恥じらうような、照れた表情。

 いつの間にか、目で追っている自分に気付いたのが最後。






 夕暮れの会議室。

 今日のノルマを終えて、周囲に人影もない。

「ありがとう、ございます。すみません、思い出しちゃったら、なんか……」

 ハンカチを受け取って静は薄青色のそれに視線を落とす。

「あれ確か、作家の男が本の最後に何か書きこむんやったっけ?」
「はい。無口だし、口下手だし、普段は絶対に使わないような言葉なんですけど。『愛してる』って、一言……」

 言葉にした途端、ぽろぽろと零れだす涙。

「感受性が豊かなんやな」
「役者さんが凄かったんですよ。ああいうセリフって、普通どうしたって陳腐さが抜けないものなのに……」

 喋る合間にも、透明な雫は彼女の頬を伝い続ける。

 ハンカチは使われないままだ。

 白石はその手からハンカチを取り上げて、静の頬や目元を拭う。

「わっ……!じ、自分で………」
「ええから、じっとしとき」

 そっと静の動きを制すると、彼女はそのまま黙り込んで抵抗をやめた。

 かなり恥ずかしそうな表情のままだったけれど。

「ご、ごめんなさい……突然泣き出したりして……」
「いや、ええと思うよ。キミのその涙はキレイやと思うし」
「えっええ!?」

 真っ赤な表情のまま、今度は固まってしまう。

「ははっ!スマン、困らせてしもたかな」

 その仕草が可愛らしく思えて、つい笑った途端に静の表情が変わった。

「もしかして……からかいましたね?」

 今度は恨めしげに睨みつけられて。

「そんな事ないで?」
「嘘ですっ!」

 笑いながら言ったのでは、我ながら説得力がない。

「もう………」

 怒る彼女には、それでも嫌そうな素振りがなくて。

 だから少し、期待するのだ。

「しかし、ええこと聞いたわ」
「いいこと?」
「ん、まだナイショや」

 にっと笑う。

「明日分かると思うけど。………文化祭終わるまではナイショのままやな」
「あの……よく………」

 分からないです、と言いたげな静を遮った。

「せやから、今はナイショやって。楽しみは後に取っとかな」








 恋愛映画の結末は、ハッピーエンド。







「昨日言ったナイショ。キミにプレゼントや」




 ならば、小さな箱に願いをかけて。




「ただし、今は絶対に開けたらアカンで。この文化祭が終わってからな?」








 中身はまだ秘密。




 テニスボールに書いた、『愛してる』。








後書き。

お題から、そして公式サイトの「無理せんでええで」から妄想して生まれました。
静でしか書けない内容にしたくて、公式で情報がないぶん悩みましたが。
こんな関係だったらいいなー、との願望を込めて。


文章構成は、先日提出させて頂いた手塚×静に近づけてみたり。
再度参加させて頂きまして、ありがとうございました!

夜月 蒼(やげつ そう)



キミノトナリ
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