●● ○ ───一生懸命な子やな。 そう思ったのが一番最初。 ───おいおい大丈夫か?働きすぎやろ。 心配になったのがその次で。 「昨日テレビで観た映画が、本当に切なくって………」 「俺も、たしか前に観たけど。キミ、ああいうの好きなん?」 こんな風に、雑談もよく交わすようになって。 「悲恋で終わってたら分からなかったですけど。……はい、好きですよ」 「……使うか?」 「え?」 差し出したハンカチを見て、きょとんとする表情。 「目ぇ、潤んでるで」 「あ………」 恥じらうような、照れた表情。 いつの間にか、目で追っている自分に気付いたのが最後。 夕暮れの会議室。 今日のノルマを終えて、周囲に人影もない。 「ありがとう、ございます。すみません、思い出しちゃったら、なんか……」 ハンカチを受け取って静は薄青色のそれに視線を落とす。 「あれ確か、作家の男が本の最後に何か書きこむんやったっけ?」 「はい。無口だし、口下手だし、普段は絶対に使わないような言葉なんですけど。『愛してる』って、一言……」 言葉にした途端、ぽろぽろと零れだす涙。 「感受性が豊かなんやな」 「役者さんが凄かったんですよ。ああいうセリフって、普通どうしたって陳腐さが抜けないものなのに……」 喋る合間にも、透明な雫は彼女の頬を伝い続ける。 ハンカチは使われないままだ。 白石はその手からハンカチを取り上げて、静の頬や目元を拭う。 「わっ……!じ、自分で………」 「ええから、じっとしとき」 そっと静の動きを制すると、彼女はそのまま黙り込んで抵抗をやめた。 かなり恥ずかしそうな表情のままだったけれど。 「ご、ごめんなさい……突然泣き出したりして……」 「いや、ええと思うよ。キミのその涙はキレイやと思うし」 「えっええ!?」 真っ赤な表情のまま、今度は固まってしまう。 「ははっ!スマン、困らせてしもたかな」 その仕草が可愛らしく思えて、つい笑った途端に静の表情が変わった。 「もしかして……からかいましたね?」 今度は恨めしげに睨みつけられて。 「そんな事ないで?」 「嘘ですっ!」 笑いながら言ったのでは、我ながら説得力がない。 「もう………」 怒る彼女には、それでも嫌そうな素振りがなくて。 だから少し、期待するのだ。 「しかし、ええこと聞いたわ」 「いいこと?」 「ん、まだナイショや」 にっと笑う。 「明日分かると思うけど。………文化祭終わるまではナイショのままやな」 「あの……よく………」 分からないです、と言いたげな静を遮った。 「せやから、今はナイショやって。楽しみは後に取っとかな」 恋愛映画の結末は、ハッピーエンド。 「昨日言ったナイショ。キミにプレゼントや」 ならば、小さな箱に願いをかけて。 「ただし、今は絶対に開けたらアカンで。この文化祭が終わってからな?」 中身はまだ秘密。 テニスボールに書いた、『愛してる』。 後書き。 お題から、そして公式サイトの「無理せんでええで」から妄想して生まれました。 静でしか書けない内容にしたくて、公式で情報がないぶん悩みましたが。 こんな関係だったらいいなー、との願望を込めて。 文章構成は、先日提出させて頂いた手塚×静に近づけてみたり。 再度参加させて頂きまして、ありがとうございました! 夜月 蒼(やげつ そう) キミノトナリ (もっと)学園祭の王子様企画 | |
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