君が眠りから覚めるまで(佐+幸)



土曜日の深夜1時を回った頃、佐助はまだ起きていた。
高校では新聞部に所属する彼は、週明けに開かれる会議(部員と顧問が出席する)で、提出する資料をまとめていたのだった。
学校新聞に載せる記事を選定するもので、部員は持ち寄った資料をその会議で皆に配布することになっている。
良いネタを仕入れた佐助は気合いを入れて資料作成に勤しんでいた。
なので、普段は人の気配や物音に敏感な質の佐助は、その足音に気がつかなかった。

ギィ、と背後で音が鳴る。
控えめに開かれたドアに驚いて振り替えると、「さすけ…」と実にか細い声が聞こえてきた。
てっきりはやく寝ろと催促しに来た親かと思ったが、その声の主が分かり肩の力を抜いて返事をする。

「幸くん?」
ゆきくん、と呼ばれたその少年は、小学3年生になった親戚の幸村だ。

幸村の両親は仕事が忙しく、帰宅時間が深夜になることも少なくなかった。
そのため、時々佐助の家に泊まりに来ることがあった。
今回は金曜日から泊まりに来ている。
小さな頃から来ているせいか、幸村は佐助にとてもなついている。
佐助もそれが嬉しかった。


部屋へ招き入れる。
学習机と椅子は佐助が占領しているため、幸村はベッドの上に座らせた。

「どうしたのさ、こんな時間に?」
「う……うむ…」
「ん? なぁに?」

いつもならハキハキとものを言う幸村だが、今はいまいち歯切れが悪い。
佐助は急かさないように続きを促す。

「佐助に…会いたくなったのだ。それで部屋へ来てみたら明りがついていて…それで……」
「そっかぁ。俺様に会いに来てくれたのね。嬉しいなぁ〜」

よしよしと頭を撫でる。
幸村は恥ずかしそうに、だが嬉しそうに頬を染めた。

幸村の歳に似合わぬこの古風な話し方は、祖父の信玄を敬愛しているため、影響されたのだそうだ。

信玄は少し遠い所に住んでいるので、あまり会うことはできない。
なので夏期休暇などの長い休みを利用して、佐助は幸村と共に泊まりに行っていた。



「と、ところで佐助、おまえは何をしておったのだ?」
「俺が新聞部だってのは前にも言ってたっしょ? んで、今は月曜に会議で使う資料作ってたんだ」

あ、資料ってのはプリントのことで…会議ってのは話し合いのことね!
と付け足す。
幸村は納得したのか「そうか」と頷いた後、「邪魔をしてしまったでござろうか」と不安げに聞いてきた。

ござろうか、て。
小学3年生にしては爺くさ…古風な話し方がやはり妙に似合っているな、と思いながら、佐助は顔の前で手を振って否定を表した。
「大丈夫、もう終わるとこだったから」
幸村は安心したように「そうか」とまた頷いた。



「じ…実は、な…おまえの夢を見たのだ」
「俺様の夢?」

佐助は再び資料に落としていた目を幸村に戻した。


「左様。おまえは…その夢の中で…死んだのだ。おれを庇って」

幸村は申し訳なさそうに語る。
佐助は、その夢を幸村が見たことを嬉しくも思ったが、同時に辛く悲しくも思った。

「もぉ。旦那ってば、なんだってそんな時の夢を見るのさ」
「え?」
「もっと馬鹿馬鹿しくて…楽しかった日常の夢を見れば良いのに」
「…佐助……?」


佐助は幸村の頭をぐしゃぐしゃに撫で回しながら語る。
その悲痛な表情を見られないように。


「その夢で、確かに俺様は死んだわけだ。あんたを庇ってね。でもね幸くん、俺はあんたのために死んだ。だから何も悲しむことはないんだよ」
「…だが佐助、おまえはあの時泣いておったのだぞ」
「それはね、あんたを守れて良かった、っていう嬉し涙だよ。きっと」


―――俺、あの時泣いていたっけかな。
泣いていたのはあんたじゃなかったかい、旦那?
なぜ俺を庇ったのだ、なんて。
俺はあんたの忍なんだから。
あんたのために身体張るのがお仕事なわけよ。
それであんたが少しでも生き延びられりゃ、俺も忍冥利に尽きるってもんですよ。


「さ。もう寝ようか、幸くん。今夜は俺様と一緒に寝てくれる?」

小学校にあがったあたりから、恥ずかしがって一緒に眠ることはなくなっていた。
だから佐助は久しぶりに幸村の体温を、傍に感じたかった。


「か…構わぬ……」
「ありがとう、幸くん」




電気を消し、ベッドに潜り込む。

「おやすみ…佐助」
「うん、おやすみ…幸くん」






―――いつかあんたが、この長い長い眠りから覚めるまで。

俺は「佐助」として「幸くん」をお守りいたしますよ。


だからさ、旦那。
近い将来じゃなくても良いんだ。


いつか、本当を思い出してくれたら。


あの頃の「お館様」と「真田幸村」、そしてその片隅に「猿飛佐助」を。




「良い夢を見てね。できれば…そうだな、八ツ時に食べた団子のこととかさ」




―――もしも思い出さなかったとしても。

俺はあんたの、あんたは俺の。

傍に居たいと、強く願うよ。









戦国の記憶のある佐助と何も覚えていない幼い幸村。
思い出す方が良いのか、知らないまま生きるのが良いのかはキャラにもよるのかな。

2014.3.25






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