ケンカップル



パラパラと本のページを意味もなく捲っていく。がやがやと騒がしい教室に、本の内容が一切頭に入ってこない。
林田は、読むことを諦めそっと本を閉じた。
喧騒の方へと目を向けると、人だかりの中で頭一つ飛び出た人物が目につく。特定の誰かを贔屓することもなく、皆に対して平等に笑顔を振りまいているその人物に、林田は吐き気を覚えた。
ムカムカとする思考を鎮めようと、チッ、と一度舌を打つ。が、その人物、谷口のせいで自身の感情が動かされたのだと思うと一層苛立ちが増す。
そんなどうしようもない思いに苛まれながら、林田はそっと目を伏せた。
この一連の動作はもはや林田の習慣と化してしまっている。

こうして今日も変化のない退屈な一日が始まるのだ。否、始まるはずだった。

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HRを含めた今日の授業はすべて終了し、林田はいそいそと帰り支度を始めていた。教室の一角では、今朝と同様に谷口が人だかりの中で爽やかに笑っている。それに冷めた一瞥をくれてから、友人たちと一言二言かわし、林田は静かに教室を出た。

住宅街のため騒音とは無縁な閑散とした路地を歩きながら、今日習ったことを振り返る。頭の中で復習をしていると、ふと一つの疑問が浮かび上がってきた。家に着いてから確認すればいいか、とも思うが、どうしても気になってしまい頭からその疑問が離れない。
少し逡巡した結果、鞄に手を突っ込み目当ての教科書を探す。プリントを詰めた分厚いファイル、教科ごとに綺麗に纏めたノート、持ち運びの大変な紙の辞書、と辿っていくが、教科書だけが見つからない。
少し疲れているのかも、と眼鏡を外し眉間を揉みこむ。それから眼鏡の汚れをしっかりと拭き取り、顔に掛けた。ゆっくりと深呼吸をして、もう一度鞄を覗き込む。
だが何度見たところで結果が変わるわけもなく、林田は肩をおろし教科書を取りに戻るべく、学校へと踵を返した。

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グラウンドでは部活生の掛け声が響いているなか、対照的に静まり返っている校舎内をさかさかと進んでいく。途中何人かの生徒とすれ違ったが、特に気にすることもなく自身のクラス前に到着した。早く家に帰りたいという思いにまかせ、教室の中を見ることなく扉を勢いよく開ける。瞬間、その先に広がる光景に、林田は確認を怠ったことを死ぬほど後悔した。

「あれ、林田。もう帰ったと思ってたんだけど。何、忘れ物?」

意外に抜けてんのな、と笑顔で声をかけてくる谷口に、一瞬にして殺意が湧き上がる。

「まあ、」

そんなつっけんどんな返事を返して、林田はひたすらに自身の机の中を探した。にこにこと人のよさそうな笑みを浮かべてこちらを見ている谷口はいないものとして考える。そうでもしないと、イライラで頭がおかしくなってしまいそうだった。

なぜ、そんなにも谷口を嫌うのか。

友人たちに何度もそう聞かれたが、理由は全くわからない。ただ、なんとなく。そう、なんとなく、気に入らない。強いて言うなら、生理的に受け付けないのだ。

「なあ、もしかして探し物ってこいつ?」

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