人間×ハンバーガー
「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか」
「はい」
「ご注文はお決まりですか」
「えっと、……ハンバーガーセットを一つ」
「かしこまりました。ハンバーガーセットをお一つですね。お飲み物はどうなさいますか」
「コーラで」
ハンバーガー店であればどこででも耳にするような、そんな在り来りなやりとりが今日も行われる。厨房では、次々に注文される商品を作るため黙々と作業が行われていた。
そんな中、いつもと違うところが一つだけ。人間にはわからない、たった一つの違いが、そこにはあった。
――ここは一体ドコなんだろう。
「お待たせしました。こちら、ハンバーガーセットになります。以上でご注文の品はお揃いでしょうか」
「はい、大丈夫です」
「それではごゆっくりお召し上がりください」
淡々と交わされる言葉にきょとんとしながらも、ハンバーガーは漠然と悟った。
――そうか、僕は食べられるために生まれてきたのか。
なんとも虚しい生である。食べられるために産み出されて、幾分もしないうちにその一生を終えなければならないなんて。
たった一つの違いとは、そう。このハンバーガー。このハンバーガーには、驚くべきことに、意思が、あるというのだ。
ハンバーガーは移動のためにわずかに揺れるトレイから、そっと上を見上げた。
――僕を食べるのはどんな人間なのだろう。
それはただの好奇心による行動だった。自身を食し、栄養として取り込む“ニンゲン”という生き物を見てみたい。本当にそれだけだったのだが…。
どくり
存在するのかも分からないが、ハンバーガーは確かに胸が高鳴るのを感じた。自覚すると速度はどんどん早くなる気がし、バンズが赤くなってしまっているのでは、とさえ思う。
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