リーマン×警備員


――チッチッチッチ

静かなオフィスに時計の針の進む音だけが響いている。片桐は一定の速度で進むそれをそわそわと見上げた。現在の時刻は10時28分。オフィスの巡回時間まであとたったの2分しかない。しかし、片桐の待つあの人が来るまであと2分もある。なかなか時が経ってくれない苛立ちで、片桐は机をとんとんと叩いた。

ただひたすらに机をたたき続けて1分半。10時半になるまであと30秒だ。遠くからカツン、カツン、と靴の音が聞こえてきたところで、片桐は心の中でカウントダウンを始める。

――3、2、1

ガチャ、と彼は今日も時間ちょうどにやってきた。扉から顔を覗かせて、こちらへ声をかけてくる彼にどうしようもない愛しさを感じる。

「こんばんは、片桐さん。今日も遅くまでご苦労様です」
「こんばんは、井上さん。そちらこそ巡回お疲れ様です」

お疲れ様だなんてありがとうございます、と健康的に焼けた肌から真っ白な歯を覗かせて笑う彼は、犯罪級に可愛いと思う。

「井上さんってホント可愛い……めちゃくちゃにしてやりたい」

ボソッと呟くと、うまく聞き取れなかった井上が「何かおっしゃいましたか」と首を傾げながら聞いてくる。傾げることによってチラリズムを発揮する逞しい首筋に、急いで口を覆ったものの、間に合わずぐふっと声が漏れ出てしまった。

「だ、大丈夫ですか」

突然地面に跨ってぷるぷると震え始めた片桐に、井上は慌てて駆け寄ろうとしてくる。それを片手で制しながら片桐は数度大きく深呼吸をしてなんとか気分を落ち着かせた。

「大丈夫です、大丈夫。最近残業ばっかりだったから多分疲れてるんですよね」

本当は、この時間帯に巡回にやってくる井上に会いたいがためだけに残っていたのだけれど、片桐はあはは、と笑いながら立ち上がった。

「本当に大丈夫ですか?あまり無理はなさらないでくださいね」

納得しきっていないのか井上は渋い顔をしていたが、突然「あっ」と声を上げてポケットをごそごそと漁り始める。


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