幼児×不良


静は足元に転がる肉塊を蹴り上げ服についた埃を払った。喧嘩の最中は気づかなかったが、もう夕日が沈みかかっている。腕時計に目をやると約束の時間を30分も過ぎてしまっており、きっと小さな待ち人は怒っているだろう。遅刻の原因を作ったモノたちを見下ろし、一度舌打ちをしてから静はその場所を離れた。

待ち合わせの公園に着くと、黄色い帽子に青いスモッグを身につけた幼児がギコギコと一人寂しくブランコを漕いでいるのが目に入る。

「ヒロ」

なるべく優しい声を作って名前を呼んでやると、その幼児、ヒロはぱあっと満面の笑みを浮かべ、短い手足を一所懸命動かしながら走り寄って来た。

「しーちゃん」

全体重をかけて飛び掛かってくるヒロを難なく受け止め、抱っこしてやる。目線が高くなったことに興奮してきゃっきゃっと喜ぶ姿を見て、静は日々の喧嘩で荒んだ心が満たされるのを感じた。

「おう、悪かったな、待たせちまって」

目を合わせてそう告げると、ヒロははっとした後いかにも怒ってます、という顔を作ってぶーぶーと文句を垂れはじめる。

「ほんと、しーちゃんおそいよ。ぼくすっごくまったんだよ」
「ワリィワリィ。代わりになんか言うこと聞いてやっから機嫌なおせよ」

片手でヒロの体を支え空いた手で頭をなでてやると、気持ちよさそうに目を細めながら擦り寄ってくる。

「なんでもきいてくれるの?」
「そうだな、できることは聞いてやんよ」
「じゃあねえ、ちゅーして」

大きな目をキラキラと輝かせながら言い募るヒロに、静はクラリと眩暈を感じた。

「お前、それ本気で言ってんのか」

思いもしなかった内容に、つい低い声が出てしまう。それを拒否と受け取ったのか、ヒロは途端に顔を曇らせた。


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