シャーペンとあいつと俺と



「今日もシンシアは綺麗だねえ。他の誰よりも美しいよ」

左隣から聞こえる恍惚とした声に、俺は人知れず溜め息をついた。そちらへ視線をやると、これでもかというほど鼻の下をのばしただらしない顔が目に付く。格好いいとか色気があるとかいって持て囃される人気者の姿は見事に形を潜めていて、なんというか……ただただ気持ち悪い。
そんな俺の思いを知る由もないあいつは、授業中にもかかわらずシンシアと名付けられた紫色のシャーペンに今日も変わらず話しかけている。

「はあ……僕にはシンシアだけだよ。君だけが特別なんだ、麗しのお姫様」

チュ、とリップ音をたてながらシャーペンに口づける絵柄にぶわっと鳥肌が立った。本気で気持ち悪い。吐きそうだう``え``ぇ``ぇぇぇ。
俺が迫り来る吐き気と必死に格闘しているとカツーンと一際高い音が響いて、教室の時間が止まった。音の発信源は言わずもがな俺の左隣で……。嫌だけど、死ぬほど嫌だけども、そちらを向くしかない。これはもはや使命だ。クラス中の「お前隣の席だろ、どうにかしろよ」という声が聞こえてくる気がする。やだ何それ怖い。
クラス中から注がれるお前どうにかしろオーラに、意を決して俺は声をかける。

「ど、どうした久住。なんかあったのか……?」

ついどもってしまったのはご愛嬌というやつだ、仕方ない。
重いプレッシャーの中必死の思いで尋ねたと言うのに、どうしたもんか……返事が返ってこない。

「久住?」

下を向いて微動だにしない奴にもう一度声をかける。と、

「……なんで」

聞き取れるか聞き取れないか位のか細い声が返ってきた。

「ん?なに?」

ここまできたら聞いてやろう、と慈悲心を働かせてなるべく優しく聞き返す。

「なんでっ……」
「うん?」
「なんでっなんで……、なんでそういうこと言うんだよシンシアァアアアアアア」
「……はい?」

な、なんですと……?シンシア?あいつ今シンシアって言ったの?えっ、何?

「僕にはシンシアしかいないのにぃいいいいい。きら、嫌いって!シンシアに嫌われたら生きていけないもう死ぬしかない!死んでやる!死んでシンシアへの愛を証明する」


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