貴方が望む通りに 

いつからだったか、なんてもう忘れてしまった。一日中この部屋で過ごして、ぼうっと外を眺める。それが当たり前の毎日。だけど、外になんて出ようと思わない。そんな自分にクククと笑いを漏らす。完全に外との関係は断たれてしまった。その位、長くこの部屋にいる。今の世界に、どれ位の人が自分を覚えているだろう。いや、どれだけ私を知っている人が息をしているのだろう。言い換えた理由は簡単だ。満月の夜に必ず私に会いに来る彼が、私の世界を壊しているのだ。家族、親戚、友達、私の視界に入った人全てをー…。最初は戸惑い抵抗したけれど、最終的にこの部屋に放り込まれてから私は思考を放棄してしまった。もうなんだっていい。あぁ、けれど今日は満月だ。出迎えなければ怒られてしまう。部屋のドアに駆け寄ろうと腰掛けていたベッドから立ち上がった。



「…………ッ」



だけど足に力が入らず、ベッドの脇に座り込んでしまう。あぁ、と思って自分の足に目を向けると足首が酷く爛れている。ベッドの足から繋がれた長い長い鎖は私の足首に繋がれ、部屋の外に行けない長さになっている。それは私の足を擦って皮が剥がし、肉が切っている。もう少しいけば、骨まで見えそうだ。なんとなく触れば、ビリッとした感覚が走った。もう私の足は使い物にならないだろう。這ってドアまで向かおうかと考えていれば、ガチャッとドアが開いた。



「ただいま、ユキ。」



「おかえりなさい、カナトくん」



決まりきった挨拶をしながら、カナトくんは私を優しく包み込む。



「カナト、でしょう?ユキ」



「あ、…ごめんなさい。おかえりなさい、カナト。」




呼び方に満足したのか、隈のある目を細めてにっこりと笑う。



「そういえば、こんな所に座り込んでどうしたの?」



床からベッドの上へと戻されながら、猫なで声で聞かれる。ベタベタに甘やかされてるのを感じながら、私も抱き返す。



「もう足が使えなくて…、ごめんなさい。」



「どうして謝るの?」



「出迎えられなかったから」



そう、と短く答えた彼はとても嬉しそうだ。まるで悪戯が上手くいった子供みたい。



「カナト、今日はなんだかとても楽しそうだね。何かあった?」



「君以外の有象無象なんて目に入らないよ。ユキこそ何かあったの?とても顔色が悪いよ?」



「え、本当?」



「うん、僕がいない間何があるか分からないから心配だな…」



「鎖で部屋から出れないのに?」



「ふふ、だって君は僕の大事な人だからね。あぁ、でももうその心配はないから安心してね?」



「え?」



「これからはずっとずっと一緒に居られるよ。」



彼の言葉で察する。もう外には私の知ってる人は居ないんだ。嬉しい、と言わなければいけないのに言葉に詰まる。代わりに、ごめんなさいと心で呟いて彼の薄い胸板に頭を預ける。


「何かして欲しい事はない?何でも叶えてあげる」



きっと本当に何でも叶えてくれるだろう。だけど、私の欲しい物、大切な物はとっくに自分で諦めてしまった。



「何もないよ。一緒に居てくれれば良い」



貴方が望む言葉と表情で返す。まるで人形だ。これからは、彼の機微に脅えながら過ごすのだろう。あぁ、神様……これは諦めた自分への罰ですか?


     

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