月蝕 

今日は何故だか胸がざわつく。自分では制御出来ない不可解な感覚にすごく苛々する。しかし、こうやって、どうしようもなく苛々した時は、あの子の血を啜ればいい。あの子は僕の為だけに生きてるんだから、僕がどんな風に扱おうが僕の自由だ。テディを抱き上げ、あの子の部屋に行こうと思った時、部屋の窓の外に違和感を感じた。ふと見上げれば、大きな月が僕を照らす。



「あぁ、今日は月蝕でしたか。」



ヴァンパイアは月の満ち欠けによって、支配される。夜の住人は皆そうだろう。月によって、その日の気分や体調が変わるのだ。例えば、満月なら酷く喉が渇き、新月なら不安を煽られる。そして、月蝕ならー………。




「………ッ……」



そこまで考えて、思考を止めた。そうだ、考えなくていい。あの子の血さえあれば僕はもう何も要らないんだ。早く早く早く飲みたい。そして、僕は足早にあの子の部屋にむかった。



***



ノックも無しに無遠慮にドアを開ける。部屋に入ると甘い甘い匂いに包まれた。甘い匂いを辿れば、ベッドに膨らんでいる事に気付く。




「ユキさん?」




「…………」



まるで死んでいるかのように身動き一つもしない。なんだか起こす気にもなれず、自分もベッドに滑り込む。起きた時にとても驚くだろうと考えれば、少し愉快な気分になった。そして、彼女が寝ているのを確認して口を開いた。



「ねぇ、ユキさん。知っていましたか?」



思っていたよりも自分の声が震えていて驚く。しかし、気にせずそのまま続けた。



「僕は君がいればいいんです。だって、あの人と君は違う。………僕と一緒にいてくれるでしょう?僕が君を呼んだら、その不細工な顔を余計に歪めて僕の所に来てくれるでしょう?」



そっと彼女の頬に左手を添えると、応えるように彼女の右手が僕のそれを包んだ。起きているのかと思ったが、先程と同じ規則正しい寝息をたてている。



「………本当に、…何で君なんですか…?」



元々冷たい頬に涙が伝い、余計に冷える。彼女の暖かい体を抱き寄せ、顔をうずめた。彼女のドクンドクンと脈打つ音があまりにも懐かしくて、心地よくて、そのまま瞼を閉じて意識を手放した。



満月の時は酷く喉が渇き、新月の時は不安を煽られる。そして、月蝕の時は月の欠けた部分を補うように手に入らない誰かを求める欲望に支配される。そう、きっと今夜の出来事は全て月のせいだ。











     

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