羽を休めた蝶々 



注意、名前変換無し、ヒロインはモブ(元彼)を引きずってます。












私の好きな場所は、図書館。

私の嫌いな場所は、屋上。

なぜなら、男女が愛を紡ぐ日であるバレンタインに私はその場所で振られたからである。だけど、今日はその忌々しい場所になぜか一人でいた。
女子の甲高い声、男子の落ち着かなさ、どこからも香る甘い匂い。それから逃げるには、最適だったというだけだ。
それでも所在なく、柵にもたれるように座って目を瞑れば、喧騒から離れ心地よかった。

あれからもう一年。早かったような遅かったような、不思議な感覚だ。普通に起きて、学校に行って、帰って、寝て、私は何も変わらなかった。だけど、彼は別れた翌日から違う女の子と付き合い、変わったように見える。

その姿を見る度に、宙に放り出された気分になった。結局、彼が残したものといえば、この胸の痛みだけ。そっと胸に手を置いてみると、彼と同じ匂いが鼻を掠めた。はっとして目を開ければ、青空を写したような綺麗な瞳がこちらを覗き込んでいた。



「こんな所にいたんだ。結構探したんだけど」



無遠慮に隣に腰かける無神くんからは、甘い花のような匂いがする。甘くて、優しくて、女の子受けしそうな匂い。



「無神くん、どうしたの?」



「どうしたもこうしたも無いでしょ。そんな酷い顔しててさ」



「…」



「また思い出してたの?キミってば、本当ドMだよねぇ。」



あはは、と軽く無神くん。確か、振られた瞬間を見られてて、同じように笑われた気がする。



「…ううん、もう過去だもの。」



「ふうん、じゃあアレ見ても何とも思わないんだ?」



クイッと親指で指された方向は校庭で、何組ものカップルが仲睦まじく帰っている。その中の一組、その一人。見間違う事なく、彼だと分かった。可愛い彼女の肩を抱き寄せながら歩いているところだった。



「別に、何でもないよ。」



「…今のは嘘だってこと位目を見てなくても分かるよ。」



「うん、そっか…。でもさ、ああいうの見ても嫉妬とかしないから、きっとそこまで好きじゃなかったんだよ。」



それに、と付け足す前に、かしゃんと柵が揺れた音が響いた。



「でも、期待したでしょ?覚えてるんでしょ、この香り」



「…」



「あーぁ、あんな中途半端なヤツと香水被るとか最悪なんだけど」



「ふふ、そうだね。」



ぶつくさと文句を言う無神くんを見ていたら、少し気持ちが軽くなった。



「…そうやってさ、感情を全部押し殺して笑うの嫌いじゃないよ。けど、一年前に見た涙の方がずっとずっと良い。あれからは、綺麗な感情を感じた」



「うん…」



「キミはちゃんと好きだったよ。」



涙は出なかった。けれど、その言葉はすとんと私の中に落ちて、終わりを告げてくれたような気がした。



「無神くん、ありがとう。ここまで、ちゃんと話聞いてくれて」



「感謝してよね。ファンの子達から抜け出してくるのって結構大変なんだから。ていうか、まだ気付いてないワケ?」



「え?」



「はぁ!?なんでこのオレがこんなしみったれた話を聞いてたと思ってんの!!?」



「…しみったれた…」



呆気にとられた私の手をすくいとって、手の甲に唇が落とされる。



「…これでも気付かないワケ?」



見据えられた両目があまりにも色っぽくて、必死に首を横に振った。



「ったく、一年もアピールしてて気付かないとか、どんだけアイツしか見てないんだよ。ムカツク」



「え、えっと…」



「で、返事は?まぁ、聞かなくても分かるけど」



挑戦的に微笑んだ彼に、思わず胸が高まった。キュッと握り返せば、そのまま引き寄せられて強く抱きしめられる。先程よりも強く香るこの匂いは、花の蜜のようだ。叶う事なら、その甘くてとろけるような蜜で誘い込めれるがまま閉じ込められたい。だって、その味をまず先に体で覚えてしまったのだから。



甘くて、優しくて、女の子受けしそうな匂い。私は、またこの匂いに惹かれて恋をする。





     

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