6

 私は一人で部屋にいた。この屋敷から彼等から逃げたくて、この部屋から逃げ出したのに私の行動は筒抜けだった。また戻ってきてしまったけれど、何もされずに戻されただけましだったかもしれない。
なんだか、体に力が入らずベッドに座る。


「ヴァンパイア……」



ぽつりと声に出してみる。あれだけ酷い事や吸血されたのだから、彼等の存在は疑いようがない。しかし、自分の中でまだ受け止めきれずにふわふわと現実味はどこかへ逃げてしまうのだ。ただ、この目まぐるしく回る現状から目を背けているだけなのかもしれないが。



「ねぇ…」



「わぁぁっ!!!」



急に声がして驚く。ここに来てから、こればっかりだ。ギギギと首を左に回せば、私の事を殺そうとしたぬいぐるみを抱いた少年が立っていた。



「五月蝿いですね…。下品な声を出さないで下さい。」



「ひっ!!!」




とっさに首を庇った私を見て、彼は一つ溜め息をついた。



「はぁ………」



彼が何かしてくる気配がないので、少しほっとして目線を彼から外した。でも、いつ何をされるか分からない。体が強ばっているのを感じながら、彼の言葉を待つ。



「……ねぇ、なんで逃げないんですか?」



「え……」



彼の予想外の言葉に驚いて顔を上げると、小首を左に傾げてこちらをのぞき込んでいた。



「なんで君は逃げないんですか?」



「………」



なんで、この人はこんな事を聞いてくるのだろう。さっき、逃げたばかりじゃないか。それに正直、さっきの眼鏡をかけた人の説明を聞いても全然状況を把握出来なかった。しかし、それでも彼等が私を逃がさないというのは居合わせた時のピリピリとした空気を全身で感じた。相手はヴァンパイアだ。人間である私が抵抗して何の意味があるというのだろう。


「に…逃げても意味無いし……捕まるから…。」



思ったままの言葉を口にしたら、彼は目を細めて身を翻してしまった。驚いて、何か言おうと口を開けば彼はドアの前で立ち止まった。



「詰まらない人ですね。興味が失せました。」



彼は一度私の方を向いてから、そのまま出て行った。



「……」



何も言えなかった。何も出来なかった。だけど、最後に見た寂しげでそれでいて全てを拒絶しているような紫色の目は私の瞼の裏に張り付いて離れなかった。



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