目を覚ますと、隣で眠っているはずの彼女がいなかった。



(厠にでも行ったのだろう…)
また目を閉じて、しばらく経ったが彼女は戻っていない。


起き上がって襖を開ける。畳は冷えており、足に冷たい。
部屋を出ると、つんと冷たい風が肌を刺した。
秋の虫の鳴き声だけが静かに浮かぶ。


すぐに彼女は見つかった。


縁側に腰掛け空を見上げていた。
その横に座ると、彼女の大きな瞳がこちらを見た。

「一さん」

「今宵は満月なのだな」

「ええ」

嬉しそうに見上げる彼女は、あの雪の日のようで、


「…綺麗だ」



つい零してしまった本音。
慌てて彼女を見てみる。

「綺麗ですね」

どうやら月のことを言ったと思ったらしい。
安堵のため息を静かに落とす。

お前のほうが綺麗だ、

(…さすがに素面では言えまい)


不意に千鶴の香りが鼻腔をくすぐった。
見ると肩に、彼女が寄りかかり眠っていた。


あまりにも無防備な寝顔に、そっと指を這わす。


一際明るく輝いている星に向かい、呟いてみる。


願わくは、


どうか彼女の笑顔が消えることなど無いことを。








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