しらじらと明けていく夜


眠れない夜には世界の終わりを見た時のような、そんな絶望感が心を支配する。
−午前、3時。静寂に包まれた薄暗い部屋に時計の秒針の音だけが響く。なかなか寝付けず、何度も寝返りをして自分的にしっくりくるベストな体勢を探していたらいつの間にか時間は過ぎた。

「あー…」

朝と放課後の部活のお陰で身体は充分すぎる程に疲れているのだが、それでも寝付けない赤也は体勢をベッドの上で変える度に疲労を含んだ声を洩らす。狭いベッドの中、隣で気持ち良さそうに眠る先輩兼、恋人を起こさぬようにもぞもぞと動いて、彼に温もりを求めるように寄り添う。今度こそはと意気込んでいると髪を撫でる感触に下ろしたばかりの瞼をすぐに押し上げた。

「丸井さん…?」
「あ?あぁ、悪い邪魔したか?」
「いや、俺こそ起こしちゃいました?」

眠たそうに赤也を覗き込むブン太に自分が眠っていた彼を起こしてしまったのではないかと申し訳なさそうに問う。しかし、ブン太はそんな赤也の問いに首を横に振り、彼の額へと口付けた。

「いや、俺もなかなか寝付けなくて」
「え?」
「ずっと目ェ閉じてりゃ寝れっかなって思ったんだけど、お前も隣で落ち着きなかったろぃ?」

鼻先、唇と口付けをされて、ぱっちりと開いたブン太の目と視線がぶつかると赤也は安心したように笑った。刻々と過ぎていく時間の中、隣で先に眠ってしまったと思っていた恋人にほんの少し寂しさを感じていた赤也の心は一気に温かさに包まれた。伸ばされたブン太の腕に頭を預けて、視線がぶつかる度に口付けを交わす。唇が重なる度に伝わる体温は上昇していき、気付けば互いに全身の体温を求め合っていた。

「あっ…丸井さ、ん…今からはダメっす、よ…」
「無理。ここまできてお預けなんて聞いてやれねぇっつの」
「んんっ…ふ、あ…でもっ…」

ベッドに背中が沈み込み、視界にはブン太と天井のみが映し出される。熱を帯びた視線を赤也に向けて舌なめずりをする彼はカーテンの隙間から洩れる外の灯りに照らされていつもよりも更に魅力的に見えた。薄暗い部屋にほんのりと浮かび上がる身体のラインが何とも挑発的で、一度手を伸ばしてしまえば後は快楽へと堕ちていくのみ。厭らしい水音と結んだ唇の隙間から洩れる嬌声に時間なんかも忘れて赤也はブン太を求めた。

「丸井さんっ、もう一回…っ」
「今からはダメだって言ったの、お前じゃなかった?」
「あぁっ、いじわる言わないで下さいよぉっ…」

全身が脈打ち、蕩けた瞳でブン太を見つめれば彼もまた恍惚とした表情で赤也を見つめていた。視線が交わり、身体が交わり、秒針の音しかしていなかった静かな部屋は欲望に呑み込まれる2人の艶めかしい吐息と声でいっぱいになっていた。外は既に明るくなり始めており、赤也は蕩けた思考の片隅できっと今日の朝練は出れないなと思った。

「幸村くんに怒られるときは一緒に、な?」

そんな赤也の考えを読んだように言ったブン太に首を大きく縦に振って赤也は再び求めるように、彼の首に手を回した。
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