一角の駐車場。そこには、黒の普通車が止まっている。
その黒の車に半分寄りかかり、空を見上げているのは、金色の長い髪を下で黒のリボンで一つに結んだ女性。その車の持ち主。
と、そのとき。
「フェイトさーん!」
「フェイトさん!」
横から、声がした。
女性が振り向くと、そこには、赤の少年と、桃色の少女が、彼女目掛けて走ってきた。
「エリオ!キャロ!」
彼女は――フェイト・T・ハラオウンは、走ってくる赤の少年と桃色の少女に、ここにいるよと言うように、大きく手をふる。
赤の少年――エリオと、桃色の少女――キャロは、フェイトの前に着くと、荒い息を落ち着かせようとする。
「すみ、ません……遅れちゃいました、か?」
「ううん。大丈夫だよ」
不安げなエリオの言葉に、フェイトは笑顔を向ける。
「それじゃ、行こうか」
「はいっ!!」
そして、車のドアを開けてエリオとキャロが後ろの席に座る。フェイトは、ドライバー席にのり。
「それじゃあ、ピクニックに」
「出発ですっ!」
笑い声とともに、エンジンがかかる。
フェイト、エリオ、キャロの、久しぶりの三人で過ごす休日がはじまった。
picnic
それから、何時間かたって、車はゆっくりと止まった。
「ここだよ」
フェイトの声とともに、車内からでた、エリオとキャロは。
「わぁ……」
「すごい……」
そこにある光景に驚いた。
そこには、たくさんの緑が生い茂る木々。しかし、保護区で働く二人にとって、それはなんともないことだったが。
木々の下の木漏れ日で、寄り添う夫婦。フリスビーや遊具で駆け回る子供達。一緒に仲良く座ってお弁当を食べている家族。
そこには、たくさんの家族連れがあった。
「ここはね、よく休日は家族連れで賑わう、結構有名な森林公園なんだよ」
驚くエリオとキャロに、フェイトが優しく言う。
「いやだった……かな?」
「そっ、そんなことないです!」
「とってもうれしいですよ!フェイトさんっ!」
慌ててフェイトに反論すると、フェイトは「ありがと」と優しく笑う。
「じゃあ、どこから行く?」
「えーっと……あっ!あそこがいいです!」
きょろきょろ辺りを見て、ぱっとキャロが指したのは。
木の横にでた少し太い枝にくくられた二本のロープ。ロープのもう片方の先には子供一人がのれる板。
「ぶらんこ……?」
「はい!楽しそうじゃない、で……」
はじめは楽しそうに話していたのだが、だんだん後の言葉とキャロがしぼんでしまった。
周りにも何個か似たぶらんこはあるのだが、使っているのは、幼稚園児ばかり。
つまり、キャロやエリオくらいの子供はのっていないってことで。
「……駄目、ですよね。私、もう――」
しゅん、と頭を下にしまう。
「――そんなことないよ、キャロ!」
「そうだよ!」
そんなキャロに、強くフェイトとエリオが話す。
「キャロがやりたいようにすればいいんだよ!」
「エリオ君……」
ぐっと拳を握るエリオ。
「そうだよ。キャロは自分のしたいことをすればいいの」
「フェイトさん」
そして、フェイトはキャロの頭をなでた。
「それに、もし誰かが変なこといったらザンバーでヤればいいから」
「僕もです!ね、ストラーダ!」
「や、そこまでは……」
それぞれのデバイスを握りしめる二人に、キャロは焦りながらも。
「じゃあ、のらせてもらいます!」
笑顔でぶらんこに座った。
そんなキャロをみて、フェイトとエリオも(+バルディッシュもストラーダも)、笑顔になった。
ぶらんこにのり、足をはなす。しかし、それだけでは動かない。
はじめてのキャロはじたばたしてなんとか動かそうとしたが、残念ながらぶらんこはただ小さく揺れるだけ。
「う〜……」
どうしようもなくなって、キャロはただ唸ることしかできない。
と。
「キャロ」
「なんですかフェイトさ、」
「えいっ!」
「きゃあ!?」
いきなり、力いっぱいフェイトがキャロを押したのだ。
慌ててロープを強く握る。そして、キャロの心がおちついたときには。
「あ……!私、ぶらんここげてる!」
前後に大きくキャロを乗せてぶらんこは揺れていた。
「フェイトさん!ありがとうございます!」
ぶらんこの椅子の上で笑顔で言うと、フェイトは微笑む。
キャロはコツをつかんで、自分からこぎはじめた。
そんな、楽しそうなキャロを見つめるエリオ。
「……いいな」
ぽつりと、一言漏れた。
「エリオ」
「フェイトさん」
「隣にあるよ?もう一つ」
しかし、エリオは「い、いいですよっ」と首をふる。
フェイトはそれでもエリオを無理矢理ひっぱってぶらんこにのせる。
「何言ってるの。ほら」
「わっ、あの、フェイトさん!?」
「押すよー!」
そして、キャロと同じようにエリオをおもいっきり押した。
「わっ――あははっ」
はじめは後ろ向きぎみだったエリオも次には普通に自分で楽しみはじめていた。
「楽しいね、エリオ君!」
「だね、キャロ!」
そうして、ぶらんこをこぎながら、二人は笑いあう。
その二人を見つめながら、フェイトも微笑んだ。
* * *
「エリオー!キャロー!」
公園にあるベンチに座り、遊具で遊んでいたエリオとキャロにフェイトは声をかけた。
「はーい!」
二人は、フェイトの元に来るとフェイトの隣にある物に目をきらめかした。
「お弁当ですか!?」
「うん。もうすぐお昼でしょ?」
「やったーっ!!」
フェイトの優しい言葉に、エリオとキャロは喜んで、フェイトとお弁当の隣に座った。
「開けて、いいですか?」
「もちろん」
そして、エリオはそっと蓋を開けた。
「わぁ……っ!」
中には、おにぎり、たまごやき、たこさんウインナー、からあげ、ミニトマト、ブロッコリー、フルーツなど、いろとりどりに入っている。
「おいしそう!」
「そうかな?」
「はい!……食べていいですか?」
嬉しそうなキャロの瞳に、フェイトは「どうぞ」と微笑んだ。
「いっただきますー!!」
そして、二人は食べはじめた。
「そんな急がなくてもちゃんとあるから、大丈夫よ」
フェイトは苦笑するが。
「ふもふ!ふももももふ!(はい!大丈夫です!)」
そんな言葉がかえってくるだけ。またフェイトは苦笑する。
うれしそうに頬張る二人は、たまごやきに手をだしたとき、思わず「あっ」とフェイトが声をあげた。さすがの反応にエリオとキャロはフェイトの顔を見た。
「……そのたまごやき、私が作ったんだ。というか、このお弁当」
少し目をそらして、また苦笑してしまう。
「甘いたまごやきって、嫌いだった?」
「いえ!大好きですよ!」
「とくに、フェイトさんのたまごやきなら!」
その言葉にフェイトは一瞬目をぱちくりさせたが、すぐに今度は笑顔になった。
「……ありがと」
それは小さな言葉でエリオとキャロには聞こえなかったけれど。
「フェイトさんも食べましょう!本当、おいしいですよ!」
「そう?何が一番おいしい?」
「私的には、とくに、これが――」
自分の作ったお弁当を、幸せそうに頬張って貰えることが、フェイトにはとても幸せだった。
* * *
それから、三人はいろいろと遊んでいた。貸し出しのフリスビーでキャッチゲームをしたり、公園にいる鯉に餌をあげたり。こうして遊ぶことがあまりなかったエリオとキャロにはきっといくつか新鮮なものがあっただろう。
そして、三人は一本の木の下にやってきた。
「ふぅ……」
木の下に座りこみ、息をつくエリオとキャロ。
そんな二人に、フェイトは一つ質問する。
「楽しい?」
「はい!とっても!」
二人は一緒に、瞬時に答えた。
その言葉を聞くと「私も、楽しいよ」と言った。
「でも……やっぱり涼しいね。木の木漏れ日って」
キャロは上を向き、フェイトとエリオも向いた。
木々からのびた、たくさんの枝や葉っぱ達。それは、たくさんの光を集めるために表面積を大きくしようとする。しかし、まるで、木々の下にくるたくさんの生命のために、木々は少しの光を下に分けてくれるのだ。
影からできる涼しさ。影と光のコラボレーション。
それが、木々がくれる生命の奇跡の一つといってもいい。
その涼しさは、はじゃぎ疲れたエリオとキャロにいいものになっていた。
「…ふぁぁ……」
「なんだか、眠くなってきちゃった……」
そして、疲れた瞳がうとうとしていく。
「いいよ?寝ても」
うとうとな二人をみて、フェイトは二人を横にさせる。二人の頭を自分の膝にのせて。
「ぁ、はぃ……」
「すみま…せ……」
その言葉は最後まででなく、ついに二人は寝息をたてはじめた。
フェイトは、二人の頭をなでる。
「……お疲れ。エリオ、キャロ」
エリオは赤の、キャロは桃色の、それぞれ綺麗な髪を、フェイトはそっとなで続ける。
「ごめんね。いつも、仕事で一緒に入られなくて」
きっと、そんなことを起きている二人に言ったら怒られるだろう。
だから、今漏れる言葉なのだけれども。
「でも、また一緒にこうやって遊ぼうね。……エリオ、キャロ」
そして、ゆっくりとフェイトも目を閉じる。微笑みをたやしながら。
優しい木漏れ日は、一組の家族を包みこんだ。
〜あとがき〜
どうも、こんにちは。
今回は桜姫さんからのリクエストでした。
・リクエスト内容
『フェイト家(フェイト・キャロ・エリオ)でのピクニックが読んでみたいです
三人でお弁当食べたりとかほのぼのしたのを良ければお願いします』
ほのぼの目指して頑張ってみました〜。家族っていいですよね!
とくに母親のひざ枕って子供が落ち着ける場所なんですよね……。というかフェイトさんやなのはキャラにひざ枕してほしい……。
リクエストにそえたお話になっていると光栄です。桜姫さん、リクエストありがとうございました!
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