「バカッ!バカバカバカバカーッ!!」
「アルフっ!?」
「ザフィーラのバカぁ!もうっ、ザフィーラなんてもうっ!」

「だいっきらいっ!!」

 そして
  ばしり、と。

 目の前の蒼き狼の頬を力いっぱい叩き、
「アルフっ!!」
 制止も聞かずに蜜柑色の少女は駆け出した。



嫉妬×素直×空



「っは、はぁ…はっ……」
 勢いで外にでてきてしまった。廊下ですれ違った人にさえ目もくれず、靴もはかず、ここまで来てしまった。――まあ、使い魔で狼形態のときは普通に靴など履きやしないのだが。
 荒かった息は整いかけてきている。酸欠状態だった体は少しずつ酸素を取り込み落ち着いてきた。
「……そういや、ここは、どこだ?」
 ふとよぎった疑問。
 彼女がいるのは、一面の緑の芝生の海の上。――グラウンドらしい。
 周りを見渡しても、木々が生い茂る場所で、間から先程までいた機動六課の建物が見える。つまり、機動六課の敷地内なのだろう。しかし、その影は小さい。
「あたし、どれくらい走ったんだろ……。どうりで疲れる訳だよ……」
 ぽつりと漏れた声は、どこにも届かず、風に消えていく。
 風は木々や芝生を揺らし、少女の綺麗な蜜柑色をした長い髪をすいてからどこかに消え去る。
「……あのさぁ」
 唐突に、そんな声をあげてしまった。
 しかし、その声に返す声はない。
 当たり前だ。
 グラウンドには、彼女一人なのだから。
 それを、その空白は強調した。
 一人。
「……」
 ……どうして、なんだろう。
 一人。
 先程まで、この時間もずっと一緒にいられるって、思っていたのに。
 どうして、あんなことをしたんだろう。どうして、あんなこと言ったんだろう。どうして――……。
 感情が強まり、人より長い爪があるにもかかわらず、強い力で "あんなことをした" 右手を握る。
『アルフっ!!』
 大切な人の自分を呼ぶ声。
 蜜柑色の少女――アルフは、そのままねっころがり目をつむった。
 空の、雲行きが怪しくなってきた。
 それは、たった数十分前のできごと――。


* * *



 前日、無限書庫。
『アルフ、ザフィーラさんに久しぶりに会いに行ったら?』
 ユーノからでた唐突的な言葉。
 アルフは急な言葉の驚きの声が無限書庫に響く。
『はぁ!? な、何言って、』
『アルフ、全然ザフィーラさんと会ってないじゃない?アルフはずっと無限書庫の仕事、テキパキこなしてくれてるし、明日くらい休暇とっても罰当たりなんかじゃないと思うよ』
 すらすらと話していくユーノにアルフは言葉で噛み付く。
『だ、だけどっ』
『それにさ、』
 ふと、ユーノの声が冷静になる。
『ザフィーラさん、スカリエッティ事件で大怪我おったでしょ?』
『っ!!』
 そうだ。
 事件時、彼は大怪我をおった。
 それでも、彼は守護獣の誇りを持ち、大怪我でボロボロになりながらも戦い続けた。
 そして、今。事件が終了し、彼は休養中だと、フェイトから聞いた。
『アルフは、心配じゃないの?』
 もちろん、心配だった。あんな大怪我をおって、大切な人があんなに大怪我をおって大丈夫なはずなんてなかった。フェイトから連絡を聞いたときなんか、目の前が真っ暗になって、ハラオウン家に帰った瞬間エイミィ達の前で泣き散らした。
 ――嫌だっ!ザフィーラがっ!ザフィーラぁっ!
 そうやって、エイミィに抱き止められながらもただ泣き散らしていた。
 今すぐにでも跳んでいきたかった。心配でたまらなかった。会いたくてたまらなかった。
 でも、病院にはまだ事件時だったから入ることが許されていなかったから、祈るしかできなかった。
 けれど、事件が終了し、彼が無事だと聞いて安心は、した。安心、は……。
『見舞いに行きたいんじゃないの?ザフィーラさんに会いたいんでしょ?アルフ』
 まるでアルフの素直じゃない心を溶かす言葉の雨に……素直に甘えたのだった。
 そして、ユーノによって休暇をもらい、機動六課に、ザフィーラに会いに見舞いと申請して(『会いに』とは恥ずかしくて申請できなかった)出向いたのだった。
 事件なので久しぶりに会うことにアルフはどきどきしながらザフィーラのいる部屋の扉の前に来て、手をかけて……開いた。
『ザフィ……――』
 会いたくて、うれしくて、愛おしく名前を呼び――かけて、思考が停止した。
 ドアの開いた先に会ったのは。
『こら、おい』
 まず見えたのは蒼い狼。
 そして。
『うーっ。ザフィーラーっ』
 蒼い狼に強く抱き着き笑顔でいる女の子。
 あの子のことは知っていた。ヴィヴィオ。高町ヴィヴィオ。なのはとフェイトの娘になった子。私も、事件前に一度遊んだことのある女の子。
 なのに、ヴィヴィオのことは知っているし、好きなのに。
 と、ヴィヴィオに抱きつかれた蒼い狼はこっちに気付き、振り向く。
『あぁ、アルフ、来たの……』
『バカッ!』
 蒼い狼の声を無理矢理切った突発的が部屋に響く声。
 その声に狼は目を見開き、抱き着いていたヴィヴィオはびくりと目が不安げになり――また強く抱き着いた。
『――っ!』
 その動きが余計に、ある感情をかきあげていく。
『バカッ!バカバカバカバカーッ!!』
『アルフっ!?』
 名前を呼ばれ、一瞬もう一つの感情が揺れたが、もう、止まらまかった。
『ザフィーラのバカぁ!もうっ、ザフィーラなんてもうっ!』

『だいっきらいっ!!』

 そして
  ばしり、と。

 目の前の蒼き狼の頬を力いっぱい叩き、
『アルフっ!!』
 彼の制止も聞かずに駆け出した。


* * *



「――……嫉妬したのかな。あたし、ヴィヴィオに」
 暗くなってきた空をみながら、あたしは自分の気持ちを素直に感じていたた。
 いや、正直に言う。あたしはヴィヴィオに、嫉妬した。
 ザフィーラに抱き着けるヴィヴィオがうらやましいと。『ザフィーラ』と名前を呼べているヴィヴィオがうらやましいがうらやましいと。ずっと一緒にいて、いられるヴィヴィオがうらやましいと。
 ヴィヴィオは、まだ子供なのに。甘えているだけなのに。
「久々だったからかな。ヴィヴィオに嫉妬しちゃうなんて……」
 ずるいって、思ってしまった。
 ヴィヴィオみたいに、抱き着きたい。強く愛おしく、抱き着いて名前を呼びたい。
「――ザフィーラ」
 ぽつり、と。
 雲がかかり暗い空から。
「ザフィーラ……っ」
 ぽつり、ぽつりと――雨がふってきた。
「う、ぁあ……ザフィい、ラぁ……っ!」
 それと同時に、涙が溢れた。まるで、雨がアルフのように、アルフが雨のように。
 呼びたかった。
「っ、う……ザフィーラぁぁっ……ぁ!」
 目の前で呼びたかった。呼びたい。呼びたいのに。
「あぅぁ…ざ、ふぃい、らっ……ぅ…」
 私は、嫉妬してしまった。ヴィヴィオに。彼とずっといたヴィヴィオに。
 叩いて(はたいて)しまった。彼の頬を。勢いだったけれど、叩いてしまった。
「あぁぁあ……!」
 泣いた。アルフは泣いた。自分の失態に。彼の名前を彼の目の前で呼びたい。呼べないのに。
 打ち当たる雨に震える体が最後の言葉を叫んだ。
「ザフィーラぁぁあ!」
 ――そのとき。
 温かいものが、アルフを包みこんだ。
 ふいに、何かに、抱きしめられた。
「っ……?」
 広い胸板。冷たい大雨の中、温かいものが、アルフを抱きしめていた。
「……何してるんだ。……アルフ」
 そう優しく言い、強く抱きしめられた。
 名前を、呼ばれた。――大好きな、人から。
「――ザフィーラぁっ!」
 振り向いて、抱き着いた。抱きしめてくれた、ザフィーラの温かい広い胸板に。
「ザフィーラ、ザフィーラ、ザフィーラぁ――っ!」
 何度も呼ぶ。大好きな名前を。
「アルフ」
「……っ、ザフィー、ラ……っ」
「ごめんな、アルフ」
「っ!」
 びくり、とアルフが震えた。
 けれど、そのままザフィーラは続ける。
「ごめん」
「違うっ!」
 しかし、アルフは首をふった。
「ザフィーラ、はっ、悪く、ない……っ!」
「……アルフ」
「私がっヴィヴィオにっ……嫉妬しちゃったからっ……!」
 雨が当たり、視界がぼやけても、アルフはザフィーラの前髪が雨で額にへばりついて見えない瞳を見つめ続ける。
「ザフィーラっ、叩いてっ、ごめんっ……!」
 アルフはそこまで言いきった。そのまま、ザフィーラにしがみつく。
「……アルフ」
「っ……な、に?」
 そして、ザフィーラは自分同様なアルフの額にへばり付くアルフの前髪をかき分けて。
「事件のときとか心配かけて……ごめん。アルフ……、好きだ」
 そう言い、アルフの額にザフィーラの、少し熱い唇をつける。
 そんなストレートな言葉と、額から伝う彼の熱に、アルフは。
「あたしも、ザフィーラが、好きだっ!」
 ぎゅっと、ザフィーラに抱きついた。


 ぽつ、と雨がおさまってきた。
 もうすぐ、晴れる。
 そして、明るい太陽が、照る。





〜あとがき〜
 そのまま部屋に帰って体が冷たいからってイチャつけばいいと思うよ!
 ……って感じで、ども。はじめてのアルフ×ザフィーラです。好きなアルザフィ、結構時間かかりました。……8KBもかいてしまいました。はは。最近文章が長くなってきてますね……。
 アルフは結構簡単に嫉妬すると確信しています。アルフは、恋をすると気持ちは素直すぎるくらいなのに、本人の目の前には素直になれない。……という感じじゃないかな、と私は思っています。
 微妙に反対的なアルフとザフィーラですが、それが萌ゆるんです。




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