あの日。
私は、アリサちゃんとすずかちゃんと学校帰りに道を歩いていたときだった。
普通に、アリサちゃん達と話していたとき、何かが、私に聞こえた。
――助けて
「え……?」
突然、ふいに、聞こえた声。
――助けて……
それは、助けを求める声だった。
「……なのは?どうしたのよ」
私が、その声に集中して歩くのをやめたのに気付いた二人は止まった。
何ともないような顔で。
「あ、アリサちゃん達には聞こえない?」
「え?何が?」
私があせって聞き返すが、二人はいたって普通の反応だった。むしろ、私がおかしいくらいに。
確かに、私には聞こえているのに、アリサちゃん達は気付いていないみたいで――いや、聞こえていないのだ。
――助けて……!
「また……っ!」
また聞こえた、多分私達と同い年くらいの少年の声。
その、私にしか聞こえてこない声は、直感的に向こうの木々から聞こえたように感じた。
次に私は、何も考えずに、走りだした。
「なのはちゃんっ!?」
「な、どうしたのよ!?」
後ろから、すずかちゃんとアリサちゃんの声が聞こえたが、止まることもせずに走っていた。
林の中の木々をかい潜り……木々の間。何かが光った。
私はその光目掛けて再び木々の間を通っていく。
そして。
その光の正体をみた。
地面に転がる赤い球。綺麗なルビーのような透明の宝石は、紐がつけられ、上の太陽からあびる光によって美しく輝いていた。
そして、その赤い宝石を大事そうに抱き抱えていたのは。
「フェレット……?」
ベージュのふわふわとした毛を身にまとった小動物だった。多分、前にすずかちゃんが見せてくれた図鑑にあった小動物の一種の『フェレット』だと思う。
と、はじめてみた体のあるものに私は驚いた。
「っ!……怪我してる……!」
小さい体には何かに切られたような傷が数多残されていた。ひどいところは綺麗なベージュを朱が染めていた。
私は慌てて、そっとその体を抱きあげた。その小さい体にはまだ温かかっし、息はまだある。傷も治まっているようだ。でも平気、とは言えそうにない。
と、後ろから「なのはー!」と元気な声が聞こえてきた。
思わず、抱えた怪我している小動物さんを起こしたり、傷を悪化させないように気をつけながら「アリサちゃん!すずかちゃん!」と私は親友の名前をよぶ。
それからちょっとたって二人は私と合流した。二人は荒い息をしていた。よっぽど急いだのか。
「っは、はぁ……何してんのよ!もう!」
「なのはちゃん、何かあったの?」
「あ、あのね。この子が……」
そう言いながら、腕の中にいるフェレットさんを見せると、二人の顔が一変した。
「ちょっ、怪我しているじゃない!」
「病院に行ったほうがいいんじゃないかな」
「うん、行ったほうがいいと思うよ、なのはちゃん」
「私、病院に連絡するわっ!」
「アリサちゃんお願い!」
そうして、私は二人とともに保護した小動物を病院に運んでいった……。
はじめての日
「懐かしいね、ここ」
がさがさ、と周りの木々をよけながら、私はある場所にやってきた。
そこは、私が、あの不思議な声を聞いた場所であり――
「うん。……ユーノ君」
彼――ユーノ君との出会いでもあった。
あの日から随分と立ち、私はもう19才。大人になったものだ。
今日は珍しく重なった休日。二人で久々にどこかへ行こうというとき、私がわがまましてきたのがここだ。
だって――
「ここが、すべてのはじまりだものね」
そう私がよりそいながら話すと、「そうだね」と彼の優しい声が帰ってきた。
ここで、私はユーノ君と出会い、魔法を知って、ジュエルシードを集めるためにユーノ君の手伝いをしはじめて、フェイトちゃんと戦って、負けて、助けたくて、戦って――。
今の私へ続くたくさんの出来事。
それは、きっとここで彼とあったことからはじまったんだと……私は思っている。
「なのはがさ」
ふいに、隣にいるユーノ君が口を開いた。
「もしあのとき、僕を助けてくれなかったら――」
「ユーノ君っ」
彼の言葉を消すようにぎゅっと彼の腕に抱きついた。
「そんなこと……言わないでよっ」
もし……あのとき。あのとき私とユーノ君が出会わなかったらなんて、考えたくない。
「私は……幸せなんだよっ。私は、ユーノ君と出会えて――夢を持てた。夢にむかって頑張れるの」
あの日の授業で先生は、『夢』の話をしていた。しかし、私には何も得意なことがなかった。親友のアリサちゃんやすずかちゃんのように強い気持ちもなかった。
けれど――あの日、ユーノ君にあって。
魔法の力で、たくさんの人を救えた。フェイトちゃんも、はやてちゃんも、救うことができて、たくさんの人に出会うことができた。
フェイトちゃん、はやてちゃん、ヴォルゲンリッターの皆さん、クロノ君、エイミィさん、リンディさん、アースラのスタッフさん達、ヴィヴィオ、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、機動六課のみんな、そして――
「ユーノ君」
そっと彼の胸の中に入るとユーノ君はそっと私を抱きしめてくれた。
「……そういえばさ」
「ん……何、ユーノ君」
ふわ、と顔をあげるとユーノ君と視線があう。
「あの日は……逆だったよね」
「ふぇ?」
何が逆なのか。よくわからずに変な声がでてしまいユーノ君はまた微笑んだ。
「あの日は僕のこと、抱きしめてくれたでしょ?」
「……そうだね」
ふふっとつい微笑んでしまう。
「ユーノ君は、抱きしめてほしいの?」
「え?」
「ユーノ君が小さくなったらまたあのときのように抱きしめてあげるよ?フェレットさん」
ちろり、と舌をだしてみせて、半分挑発っぽくしてみた。
しかし、ユーノ君はなぜか笑ってしまう。
「な、なんでよっ?」
「僕は、フェレットさんじゃないよ」
そして、私の唇を指でおして。
「なのはの恋人――でしょ?」
そう言って彼は笑った。
「……うん」
私は、恥ずかしくて真っ赤になって……でも、とてもうれしい。
「……ユーノ君」
「何?」
「……ん」
名前をそっと言ってから唇を突き出してみせた。
瞳は閉じたまま。
彼は一回息をつめていたが、少し笑った気がする。
そして……唇がふれあった。
「…ン……」
唇から伝わる体温。優しいキス。抱きしめて、より感じられる彼の鼓動。
こんなことも、きっとあの日がなければ、はじまってなんていなかったんだろうな。
優しいキスをしながら、私は心で感謝した。
あの日にありがとう。
あの出会いにありがとう。
あのはじまりにありがとう。
木々の木漏れ日の中、私達は、抱きあって、幸せを感じていた。
――ユーノ君、大好き。
――僕もだよ。なのは……。
〜あとがき〜
はじめから、こんなでいいんですか編集長。
……はい。ユーなのお題一発目。いかがでしたでしょうか?
ユーなの短編は、なのはベスト!アンケートで一位作品の『song―my heart―』以来ですからね……。
今回のテーマは、『はじまり』に『甘さ』を加える、でした。……ぶっちゃけ、甘々ユーなのをめざしました。甘々本当に難しい……。
……という感じで、はらはらしていますが、これから、ユーなの本格始動していきますのでよろしくお願いいたしますっ!
(旧題『ユーノ×なのはで10のお題・1 はじまり』文章そのまま、題名改名)
【Short Storys】
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