「――ユーノ君?」
 暗闇の中、優しい声のした方向にゆっくり振り向く。
「どうしたの? ユーノ君」
 そこには、暗くてもわかる、愛しい女性(ひと)。
 早く寝ないと、風邪ひいちゃうよ?
 そう告げると、彼女は愛くるしい紫の瞳をずっとこちらに向けたまま、チャームポイントのサイドポニーを揺らして首をかしげた。
「……お腹、痛いの?」
 女性は、着替えた桃色のパジャマを軽く握りしめて、綺麗な紫の瞳を揺らす。
 その瞳に、優しく微笑みかける。
「………ううん。違うよ。大丈夫だよ、なのは」
 そう言うと、今まで座っていたベットの隅から彼女のほうに向くと、両腕を広げて、
「……なのは、おいで」
「…うんっ」
 彼女は、少し頬を染めながらも素直に抱きついてくる。
 が、それは彼女の嬉しさの気持ちを表しているのか、
「――うわっ!」
「きゃっ!」
 ぼふ、と、ベットに倒れこんでしまった。二人一緒に。
「びっくりしたぁ……」
「にゃはは……ごめんね、ユーノ君」
「大丈夫。気にしないでよ」
 そう言うと、また一緒に微笑みあった。



闇夜に舞う、愛しき光



 けれど、倒れこんでも抱擁はやめてない。
 しばらく二人して微笑みあうと、なのはは零距離にあるユーノの胸に顔を埋めた。
「……ユーノ君の胸、あったかい………」
 そう消えいるような声で言うと、ユーノの胸に潜りこんでしまう。
「なのはだって……すごく、あったかいよ」
 ユーノは、なのはの温もりを丁寧に抱きしめる。
 ユーノは、ゆっくり右手をだすと、自分の胸にうめるなのはの頭を優しく撫でる。そのたびに、優しいシャンプーの匂いが、ユーノの目の前でする。
「さっきシャワーに入ってきたばっかりだから、なのはの髪、いつも以上にいい匂いだね」
「にゃは……ありがと」
「……なのはの香り…」
 そう言い終わる前に、ユーノは、まだしっとりとした茶色に顔を埋めた。
「きゃっ!? ――ユーノ、君っ!? や、やだよっ……く、くすぐったいよぉ!」
 頭皮がむずむずとして、なのはは体を動かしてじたばたする。しかし、ユーノは軽く抵抗だけして、顔は優しい香りに埋めたままだ。
「んー……いい香り…なのはの香り、僕、大好きだよ」
「……うー! わ、私も! ユーノ君の香り、大好きだよっ!!」
 どうしてムキになるのかはわからないが、なのはも負けじとユーノの胸に抱きついた。
 そうして、一人分には広いが二人分には狭いベットにも、しっかり――むしろ、周りに余裕があるくらいに――倒れられている。
「――ところで、ユーノ君」
「ん。何?」
 ちゃんとなのはの言葉を聞けるように、ユーノはそっと彼女の体を解放する。なのはは解放された隙間で、胸に埋めた顔をあげ、ユーノの顔をみつめた。
「さっきずっと何か考えていたみたいだったけど……、何を、考えていたの?」
 私になら……聞かせてくれないかな?
 首を傾げて優しく、少し困ったように微笑むなのは。
 その姿をみて、ユーノも軽く微笑んで「そんな、隠すようなことでもないんだけどね」と言い、口を開いた。

「夢を……見たんだ」

「………夢?」
「そう、夢」
 そして、不思議な色を瞳にただして、ふっと頭をあげた。

「なのはと会ってから今までの、日々」

「……あ」
 その言葉とともになのはの頭に駆け巡る、これまでの年月――。
「そういえば、フェイトやヴォルゲンリッターのみんなと戦っていたときも、こんな、綺麗な夜だったな、って」
 見上げる空。そこは、光の拒絶された真空の闇。だが、光の拒絶があるほど、闇は深く、美しい。
「僕は、なのはのサポートもしたけれど、基本、ただなのは達の戦いを見つめているしかなかった」
 フェイトととのときなんて、なのはだけに戦わせてごめんね、というユーノの言葉に、なのはは強く抱きついた。顔を否定するように擦り付けるなのはの頭を何度か優しくなでてから、ユーノは言葉を続ける。
「でもね。……僕はいつもそのとき思ったんだ」
「………え?」
 なのはの疑問詞を聞いて、ユーノは瞳をとじ、息を吸って、
「なのはは、どんな暗闇の夜でも、綺麗なんだ」
 瞳をとじることによって、より脳裏に繊細にうつしだされるのは、闇夜を駆ける、なのはの姿。
「例え、どんなに暗い夜に閉ざされても、なのはの姿は、光輝いている。――昔のフェイトのように、さみしく闇に溶けてしまうようなことなんてない。むしろ、とても繊細に、綺麗に、輝いているんだ」
 闇と対をなす白いバリアジャケットが身を包んでいるからではない。物理的な意味なんかで、輝いているのではなく。
「なのはの――力強い光をもつその瞳が、その姿が、星よりも綺麗に、煌めいているんだ」
「……ユーノ君、」
 名前を呼ばれてで、ユーノはその顔を、彼女の顔に近付ける。彼はそのまま近付いた彼女の桃色の唇にくちづけた。
 それは、優しいキス。
 唇を、触れ合わせるだけの……。
 そして、数秒して唇が離れる。
 簡単なキスなはずなのに、なのはの瞳は恋したての少女のようで。
「輝いている瞳も、そんな瞳も、全部、僕がなのはを好きになった理由なんだろうね」
 そうして、そんな風に閉められたら、
「……馬鹿ユーノ君」
 なのははただ、真っ赤になって、俯いてしまうしかない。
 しかし、ユーノは微笑んで「そんななのはも、やっぱり好きだな」だなんて続けて、なのはの胸は高まり狂う。
「……ユーノ君」
「…………ん?」
 口説く言葉を話していたユーノは、笑いながらいた。けれど、なのははユーノの瞳を捕らえた。彼女の、彼女らしい光を持つ紫の瞳が、緑の瞳の奥を、捕らえた。
 ユーノは軽くびっくりして言葉がでない。
 しかし、なのはは口を開いた。
「ずっと、一緒にいようね。ユーノ君が夜に消えそうになっても……私が一緒にいるよ。私の光が、ユーノ君を、絶対に、朝へ一緒に行けるよ」
「……なのは」
「絶対に、一緒にいる。――離したり、しないからね」
 ね?
 すらすらと放つなのはに、ユーノは少し息をのんだ。
 逆にそうして、なのはは一気に言い切ると、何秒かした後、自分が言ったことに気付いたのか「あ!?いや、あ、あぁうぅ……」と変な言葉を言って縮こまってしまう。
 その姿を見て、ユーノは。
「――そうだね」
 あはは、と笑いはじめた。
 え? と、きょとんとしてしまうなのは。
 目をぱちくりさせるなのはを横目で見ながら、ユーノは小さく笑いながら口を開いた。
「ありがとう」
 突然の言葉に、余計になのはは困惑してしまう。
 でも、ユーノは。
「離さないよ」
 そして、優しくなのはを抱き上げる。
「絶対に、離さない」
 強く、抱きしめる。
 その力と思いに。
 だから、彼女も。
「――うん」
 彼女も、抱きつく力をこめた。

「おやすみ、なのは」
「おやすみ、ユーノ君」
 そして、二人はあたたかな眠りにつく。
 ――その体は、離れずに。

 夜は更け、朝が巡りくる。
 そのときに。
 それからも。
 これからも。
 このときも。
 ずっと、あなたと共にいれますように。





〜あとがき〜
 遅くなりましたが、今回の作品は、ユーノ君大好きっ子さんからの二つ目のリクエストでした。
『調子に乗ってもう1度リクエストしたいと思います(←自重しろ!
 今度は夜、ユーノ君となのはさんが一緒に寝るのが前提で二人の寝る前の会話がいいですね。
 今までのことを振り返るという話をリクエストします。
 というか、前回といい今回といい。夜ですねテーマが。
 まぁ、僕が夜のほうが好き、ということもありますが。』
 夜――難しいですね。けれど、リリなのの無印とA'sの戦闘シーンは夜での戦いばかりだったのでそのところはつなぎやすかったです。
 ただ、お話がどちらかというと、過去を振り返る話ではなくて、二人の意志の確かめあいと絆と愛を深める夜のお話になってしまいました。
 駄目だよ、私のユーなのには甘くなる道しかないみたいだよ……っ!
 ついでに『そうして〜倒れられている』は言うまでもなくユーなのが超抱きあってますw




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