「わー!」
 そんな声とともに乗っていた車から飛びだす子供。
 その後をゆっくりながらも追い掛ける二人の大人。
「ねぇ!みてみて!」
 と、子供は指を天に向ける。
 その先には。
「わぁ……」
「綺麗だね……」
 その先には、漆黒の中に、白や金の粒の光が一面に散らばっている、満天の星空。



hosikuzu



 ピンポーン。
 そんな明るい音とともに。
「なのはママー!ただいまー!」
 とんとんとんとんっと明るい声が部屋に響き渡る。
「なのはママー!」
「お帰り。ヴィヴィオ」
 そして、その声をむけられた女性はその姿をみると、そっと微笑んだ。
 少女は、小さく結んだ金の髪と体をぴょこぴょこ動かして、茶色のサイドポニーテールの女性に抱きつく。
「ねぇねぇ!なのはママ!」
「ん?何、ヴィヴィオ……あれ?」
 と、ヴィヴィオのその小さい手にある物になのはは目をとめる。
 ヴィヴィオの手にあるのは、一冊の本。表紙は、闇色。しかし、その闇色には白や金の屑が散らばっている。
「ヴィヴィオ、この本は?」
 なのはがたずねると、待ってました!とばかりに笑顔になる。
「あのね、今日はこの本を学校の図書館から借りてきたの!」
 最近、ヴィヴィオは学校の図書館によく通っている。もともと、よく本を読むヴィヴィオだったから、学校に広い図書館があって、自由に読むことができるのなら、本を読むのが好きなヴィヴィオにとって、絶好の場所なのである。
 ……もしかしたら、あの本の好きな彼と一緒に無限書庫で本を読んでいたから。彼や環境が本を読む子に育ててくれたのかもしれない。
 ところで、この本はなんだろう?
「……ね、ヴィヴィオ。この本、ママに貸してくれる?」
「うんっ!はい!」
「ありがとう」
 そして、なのはは本の表紙を開ける。
 闇色の表紙を開けると、そこには、本の表紙と同じくらいに美しい闇色に散らばる白や金の粒のページが本いっぱいに広がっていた。その隣にはその説明がかいてある。
 そんなページが何ページも続く。
「……これって」
「お星さまの本!!」
 なのはの言葉に、ヴィヴィオはすぐにうれしそうに反応する。
「綺麗でしょ!?ほら、これ」
 ヴィヴィオは微笑んである一ページの一カ所をさす。
 そこには闇色の中に、とくに強く輝く三つの星があって、その三つが線でつながれている。
「これね、『なつのだいさんかくけい』っていうんだよ!」
「へぇ、そうなんだ!覚えているなんて、すごいねっ、ヴィヴィオっ!」
「えへへー」
 ほめられたぁー、と笑うヴィヴィオに、なのはは関心した。夏に綺麗に写る『夏の第三角形』。自分も知っているが、まだ読んだばかり、知ったばかりなはずなのによく覚えたヴィヴィオに確かに関心した。
「ねぇねぇ、なのはママ?」
「ん、何、ヴィヴィオ?」
「本物のお星さまがみたい!」
「え?」
 驚き、なのははページから目をはなすと、そこにはきらきらとしたヴィヴィオの赤と緑の瞳があった。
「連れてって!ママ!」
 しかし、なのはは難しい言葉しかでてこない。
「んー……でも」
「この本にもね、もっときれいなお星さまがみたいなら自分の目でしっかりとみたほうがいいってかいてあったよ!」
 だから、なのはママ、連れてって!
 そんな切実なヴィヴィオの願いは、しっかりとなのはに伝わった。
 この辺はビルが並び立つ都会だから、見えたとしてもすごく近い星くらい。ヴィヴィオの思う星空は、もっと田舎じゃないと見れないだろう。しかし、なのははそんな田舎まではしらない。
 けれど、ヴィヴィオの願いを叶えたくて、考えて、考えて――。
「あぁ、そうだ」
 彼なら、わかるだろうな。
 今、なのはの心に写る存在。長い金の髪を一つに結んでいて、本が大好きな、彼。たくさんの本と、たくさんの場所に行ったことのある彼なら、何かわかるかもしれないな、と……。


* * *



 それから、時間は過ぎて今は夜。
 ここは人はあまりいない、自然が多く残った草原だった。
 そこに、レジャーシートを広げたのは、金の髪の男性。
「……この辺は、どうかな。よく空が見渡せるし」
「そうだね」
「うんっ!」
 その声に優しく返事をする茶色の髪の女性と、明るい声の金の少女。
 三人――ユーノ、なのは、ヴィヴィオは、自分達くらいでいっぱいいっぱいの小さなシートに仲よく座った。
 それから、三人は、空を見上げた。
 満天の、星空。真っ暗な黒の中にある、光眩しい星屑達。白、金、時折、赤や青。光輝く星々達に、なのは達は圧倒される。
 星空の下の時間は、ゆっくりとたっていく。
「ほんとにすごいねー!ね、なのはママ!ユーノパパ!」
「うん。そうだね」
 ユーノとなのはの前に座るヴィヴィオは振り向いて、笑顔になる。
「よかったね、ヴィヴィオ。ユーノ君が、この場所を知ってて」
 そう。あの、ヴィヴィオに「星をみたい」とねだられた後、なのははユーノに連絡した。事を話すと彼は微笑み、彼が仕事を終えた後合流し、ここにきた。ユーノがいうに、ここに一度捜索で来たことがあり、そのときのこの星空が忘れられなかったらしい。
 そして、本当に、綺麗。
「でも、本当に、すごいね……」
「……うん」
 なのはとユーノのつぶやきも、あの無限の星空にとけていく。
 そのとけ方は、さみしくなく、むしろ優しい。
 それから、なのはが入れてきたお茶をなのは自体がいれ、ユーノに渡す。ヴィヴィオは、小学校の遠足用に買った自分の水筒から水筒についてるコップにそそぎ、おいしそうに飲む。
「ユーノパパー?あの星、なぁに?」
「あぁ、あれはね……――」
 ヴィヴィオの素直な質問に、博学なユーノは優しく教える。その二人を微笑みながら見つめるなのは。
 そんな、小さく大きく大切な時間が過ぎていく――。
 と、ヴィヴィオがいきなり立ちあがった。
「ねぇ、ユーノパパ!あの、むこうにある大きな木って、なぁに?」
「え?大きな木?」
 すっとユーノが立ち、ヴィヴィオが指さす方をみる。そこには大きな立派な木があった。
「いや、知らないな……僕が来たときには、なかったよ」
「よーし!わかった!」
 そう、半弱気な声に、逆にヴィヴィオがいきりたつ。
「ヴィヴィオ、あの木まで行ってくるね!」
「え?」
 そして、そんな言葉を残すとヴィヴィオはさっさと走ってしまう。
「ヴィヴィオー!暗いから気をつけてね!後からそっちに行くからー!」
「うん!大丈夫!懐中電灯あるもーん!」
 懐中電灯を握りしめて、ヴィヴィオは笑って草原を走っていく。
「……それじゃ、片付けなきゃ、ね」
「……うん」
 ユーノの言葉におされ、なのはも先程まで飲んでいたお茶の水筒をしまう。
 何分もせずに片付けは終わり、ヴィヴィオの声をたよりに二人は歩きはじめる。
 風が、静かな時間にふいた。
「――ごめんね、ユーノ君。いきなり声かけちゃって」
「大丈夫だよ。僕も無限書庫の本の整理が終わって一段落ついてたときだったしね」
 なのはの言葉に、ユーノは優しく微笑む。そんな他愛もない話をしながら、一人の男性と一人の女性は草原を歩いていく。
「ヴィヴィオが、星をみたいっていうから……」
 苦笑して、前に目線を送ると、その当人には、わーっ!と言って草原を駆けている。
「いいんじゃないかな。ヴィヴィオだって、そんな年頃だよ」
「……そうだね」
「それに……、僕はなのはやヴィヴィオに久しぶりに会えたことが、うれしいよ」
 そんな言葉を、恋する人から言われたら、なのはだって真っ赤になってしまう。――まわりが真っ暗だから、ユーノはわかっているのかいないのか。
「……ユーノ君」
「なのは」
 ばさ。
 音とともに落下したのは、レジャーシート。
「ユーノ、君」
 ユーノは、いきなりなのはを抱きしめていた。
「……どうしたの?ユーノ君」
 いきなりにびっくりしながらも、なのははユーノの顔をのぞきこむ。ユーノの顔は、ひどく、かなしそうな。
「――僕がね、ここに来たとき、僕、一人だった」
 そう、はじまる、ユーノの言葉。
「一人で旅をしていて、捜索していて、ここにたどりついて」
 本当に、あのころは、さまよっていた。
「そんなとき、この星空にあった」
 ユーノの瞳には、どこまでも悲しみの色があった。
「そのときも、綺麗って思ったけど、逆に、すごく悲しかった。あんなに一つの星のまわりには、たくさんの星がいるのに、僕は、一人」
「…ユーノ君……」
「でもね、」
 言葉がとぎれる。
 ユーノの口が、なのはの唇で、塞がれたから。
 ユーノの、零距離にあるなのはのつむられた瞳からは、一つの涙が零れていた。
 何秒かして、唇は離れる。
「――でも、なのはがいてくれて。なのはとヴィヴィオと僕で……この星空を見れるのが、僕は、幸せだよ」
「……うん」
 ユーノの指が、なのはの涙を、はらった。
 そして。
「……なのは」
 くい、と。ユーノがなのはの頬に、手をついた。
「え、と…ユーノ君?」
「何?なのは?」
「え、えと……っ」
 なのはの顔が真っ赤になる。頬の熱が、手からユーノに伝わる。
「ヴィ、ヴィヴィオが来ちゃったら、」
「さっき、自分からしてきてくれたよね?」
「う……っ」
 余計なのはの顔が真っ赤になり、そっぽをむけようとした、が。
「だめだよ、なのは」
 手をひいて、ユーノがなのはにキスをした。
「…ん、ぅ……」
 それは、先程よりも長いキス。
「………ん」
 そして、ちゅ、という音とともに唇が離れた。
 なのはの熱は最高潮に近い。
「……なんだか、ロマンチックだね」
 この、無限に広げられた星空のなかで、なんて。
 抱きしめられたなのはが、ぽつりという。
「……そうだね」
 それだけ言い、二人はもう一度、キスをした。


「……ふう」
 前方2メートルほど。
 そこには、自分のお茶をコップにいれ、座りこんだヴィヴィオがいた。
 しかも、正座。
「……でも、ヴィヴィオのこと気にしないで、きすしちゃえばいいのに」
 いつ覚えたの、その単語。と突っ込みたくなる発言を、すらりと小さな声でするヴィヴィオ。
「もうちょっと、ここでなのはママとユーノパパのことみてよーっと」
 そして、一口お茶をこくり。
 その姿は、二人のことを見守る母親みたいであった。





〜あとがき〜
 あなたどれだけ大人なの聖王様。
 こんにちは。読んでくださりありがとうございます!今回は、ユーノ君大好きっ子さんからのリクエストでした。
*リクエスト内容
『ユーノ君となのはさんとヴィヴィオで夜に星を見る話とかを読んでみたいです。理由は何となく(ヲイ
そしてユーノ君となのはさんがイチャイチャしすぎて呆れるヴィヴィオとか。』
 ユーなの、いちゃいちゃさせすぎましたよ。というか最近小説の糖分濃度がうなぎのぼり(え?
 しかし、ヴィヴィオに「きす」発言させてしまった……いや、ヴィヴィオはきっと、こっそりユーなののいちゃいちゃ見てそうです。いや、見てる。
 そして、小説の容量9KB……かきすぎ……。
 ともあれ、ユーノ君大好きっ子さんのリクエストにしっかりお答えできる作品になっていたらうれしいです!




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