無限に続く本棚。
 そんな空間に浮かぶ、緑の光の板。その光は大小の小さな板が並んでいて――本当は大きな板が白、小さい板が黒――手がその小さい板を叩くと綺麗な音が響く。それは――鍵盤。
 それを叩いているのは、その鍵盤を作っている魔力も、金髪に緑の瞳を眼鏡でふちどった男性だ。彼は、無限な本棚の空間の中で、数枚の楽譜とともに体を浮かしてその光の鍵盤に指を走らせている。――彼がここの空間の長なのだが。
「――と、ここまではひけた……かな」
 と、ときどき一人ごとをしゃべっていたりする。
「あの……司書長?」
 そんな長に、部下の一人が声をかける。
 その声に、彼は鍵盤から視線をはずし、振り返った。
「どうしたんですか?」
「いや、どうしたって……もう何時間練習しているんですか?」
「え?」
 ぱっ、と腕時計をみるが、何時からはじめたのか記憶がない。ただ、声をかけた少女がため息と苦笑まじりな声だったから、そうとう集中していたのだろう。
 彼は再び彼女に振り返り、「あはは……」と苦笑した。
 そんな上司をみて、「もう……スクライア司書長は」とため息をまたつく。
 彼の名前はユーノ・スクライア。
「ほどほどにしてくださいね。司書長」
「ああ、わかってるよ」
 彼――ユーノはまた鍵盤を叩きはじめた。
「……なのは」
 ぽろん……。
 無限書庫に響く、想いの音色――。



Song ―my heart―



「――休暇?」
「うん……まぁ、ちょっと出かけたいんだけど……駄目かな?はやてちゃん」
「それは、別にええけど」
 親友が手をあわせ、必死にお願いされている機動六課隊長の八神はやては軽く首をかしげながらも許可した。
 許可をもらったはやての親友兼スターズ隊長の高町なのはは、「ありがとうっ!はやてちゃん!」と言い、嬉しそうな笑顔と声とともにかけていってしまった。
 勢いで、いつも以上に大きな音がなったドアを見つめて、はやては軽くため息をつく。
 そんなとき、はやての肩にいたリインが首をかじけた。
「なんやでしょう……なんであんなに楽しそうなんでしょうか……?」
 リインが思わず言うと。
「ふふっ……なのはちゃんは」
「ふえっ?はやてちゃん?」
 リインの主であるはやてが笑っている。
「なんでですか?はやてちゃん、事情知っているんですか?」
「いや、知りはしないけどなぁ……」
 手をそえてはやては笑いながら、リインにつぐ。

「大好きな人に久々に会えるような……最高な笑顔やったから」


* * *



 廊下に響く足音。それとその先から音色が奏でられている。
 その廊下の先にあるのは、一角のカフェ。そのカフェにあるのは、おしゃれな白のテーブルと椅子と……漆黒のグランドピアノ。
 そこに座り、綺麗な音色を響かしているのは――金髪に緑の瞳を眼鏡でふちどった男性。
 走ってきたなのははその姿をみると、思わず、その背中にとびついた。そして、とびきりの声で、名前を呼ぶ。
「ユーノ君っ!」
「――なのはっ!」
 彼――ユーノも背中で感じたなのはに気付き、なのはにふりむき、そのままなのはを抱きよせる。
「…なのは……」
「……んっ」
 ユーノに名前を呼ばれ、なのはの顔が赤く――とびきり笑顔になり、ユーノに抱きつく。
「久しぶりだね――ユーノ君っ」
「……うん。久しぶり、なのは」
 言葉をかわし、目線を交差させ、再び抱きあう。
 見るからに恋人達の再会である。(他人から言えばピンク全開だが、カフェには二人しかしないため、何もつっこませなかったりする)


 それからなのはとユーノは純白のテーブルでたくさんの会話をした。機動六課のこと。スバルやティアナ達、訓練のこと。ヴィヴィオのこと。フェイトやはやてやヴォルゲンリッターの……仲間達のこと。語りつくせないくらい、たくさん、たくさん。
 ユーノも、無限書庫での話をする。新しい、働き者のたくさんの部下達や、ザフィーラのことをつかれると真っ赤になってひそかに会いたがるアルフのこと。そして――鍵盤で曲をひくことを、最近、趣味でやりはじめたこと。
 なのはは、ユーノが曲をひくことはしらず、はじめはびっくりしていたが、ユーノ君が無理して働きすぎないより、そんな素敵な趣味があったほうがいいな、と、微笑んだ。
 そして、なのははユーノからもらった招待状(デートの誘いの手紙)を思いだし、ユーノに内心ドキドキしながらも聞く。
「――それでユーノ君。……その、聞かせたい曲って?」
「あ、うん……あ、なのははそこにいて?」
「う、うん……」
 ユーノは立ち上がったが、なのははユーノに静止され、そのまま椅子に座っている。
 ユーノはなのはがそのままでいるのを確認すると、そっと微笑んで、先程まで座っていたグランドピアノに座っ……椅子の前にたった。
「……ユーノ君?」
「えー、っと、それじゃ、これからユーノ・スクライアからなのはにある曲を演奏させていただきます」
 そう言うとなのはに軽くお辞儀をする。紳士。
 そして、ユーノは、すっと椅子に座って、鍵盤に手をおき。

 ――たった一人の、愛する女性への演奏を……。

 何分たったんだろう……。
 いつのまにか軽やかに響いていた音は静まり、ユーノがゆっくりと立ち上がっていた。
 なのはは、つい聞き惚れていて、思わず慌てて拍手をした。
 そんななのはにユーノはまた微笑む。
 そして、ユーノはなのはに語りかける。
「――ねぇ、なのは」
「何、ユーノ君?」
「僕がね、どうしてピアノひきはじめたと思う?」
「え?」
 思わずなのはは目を見開く。

「なのはに、聞いてほしかったんだ。……僕の気持ち」
「ユーノ君?」
 ユーノは微笑み。

「ショパンのワルツの13番っていって……ショパンが初恋の人を想って作った曲なんだって」


「ッ!……ユーノ、君……」
「――なのは」
 驚きと嬉しそうな顔のなのはを見つめながら、ユーノは伝える。
「……ずっとずっと、大好きだよ」
「……ユーノ君っ!!」
 なのはは椅子から思いきりユーノに抱きつく。

「私もっユーノ君のことっ大好きっ!!」





〜あとがき〜
 恋愛上等!と、アンケート一位だったユーノ×なのはだったので、頑張ってみました。
 ユーノとなのはのペアは、私的に『物静かだけど互いが互いを愛してる大人な恋』――です。
 だから、そんな二人の恋心を感じていただけると光栄です……っ。
 激甘なユーノ×なのはをお待ちしていた方、すみません(笑)。




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