それは、機動六課がまだはじまったばかりのころ。
まだまだ知らない人ばかりで。
憧れでもあったなのはさんの訓練を受けはじめ、少しきついけど夢のために頑張っていて。
私は、少し不安になりながらも機動六課になれようと思っていた日々のひととき。
出会いの手と手は
その日は、スバルがデバイスのことでデバイスマスターのところに行っていて、エリオやキャロ達とも別行動。つまり、私が一人で機動六課内の廊下を歩いていたときだった。
「……よ」
ふいに、ある人に話しかけられたのだ。
さばさばした短い髪に、緑の瞳。少し微笑みをたやした顔の男性が立っていた。
「……あなたは?」
なんとなく、雰囲気が軽い感じがして、警戒心が生まれた。
しかし、その問い掛けが警戒心満々だったらしく、目の前の男性は苦笑していた。
「そんな顔しなくていいって。俺は味方だぜ?」
「まぁ……そうですけど」
その言い方。その言い方がなんとも軽々しい感じで満ちていて、私は、挨拶だけして去ろうと考えた。
「それでは、これで……」
敬礼して、踵を返して、
「逃げるのか?」
『逃げる』。
その単語に、跳ね返るように私は振り返った。
しかし、振り返ったところにあったのは、その単語を言ったとは思えないほど優しい目だった。
「おいおい、そんな過剰反応しめすなよ。俺は敵じゃねぇって」
そう繰り返す彼。
「それに、レスキュー目指すんなら、そんなにぴりぴりしてるとやっていくの難しいぞ?レスキュー中にはいろんな人間に会うことになるんだから」
もしかして……試したの?
私は、異常に反応してしまった自分を後悔した。
その気持ちがついもれた。
「……じゃあ、なんで『逃げる』なんて言葉」
「あぁ、なんか『これ以上関わりたくない』みたいなオーラ満々だったからな。逃げるのかなーってな」
まさかそこまで読まれていたのか……。
私は、はじめてのはずなのに、やけに絡まってしまうこの人が、なんとなく不思議だった。
「ってかさ」
「……はい?」
「何か忘れてないか?」
……何かありましたっけ?
素直にわからず、私は首をかしげてしまう。
それをみて、目の前の男性はため息をついて。
「名前」
「……あ」
私の、そっけない言葉に、また苦笑した。
私はしっかりと敬礼した。彼も、苦笑しながら軽く敬礼してみせた。
「え……と。私は、ティアナ・ランスター二等陸士です」
「俺は、ヴァイス・グランセニック陸曹だ」
名前をつげた。
そして。
「ん」
なぜか、手を差し出された。
「……はい?」
「え?しないのか?」
ほれ。
そうやって、再び手を強調してきて。
……ああ、なるほど。
その手の意味が、わかった。
私は、一瞬、自分の小さい手を見つめて、私は。
私の手を彼の手に重ねて――握りあった。
「よろしくお願いいたします。――グランセニック陸曹」
「ああ。こちらこそよろしくな。ランスター二等陸士」
そう彼が言い、……強く握られ、驚いた。
男性特有の、大きな手。その手は、少しかさかさしているが……温かく、少し心地よい。
そして、ゆっくり手が離れる。
「……ま、二等陸士もさ」
そして、さっきまで、私の手を握っていた彼の大きな手が、
「……気強くなりすぎずに、歩んでいけよ」
私の頭を、ぽん、と叩いた。
「え……?」
ふれたときには、すでに向こうは歩みはじめていて、私が振り返ったときには、もうすでに私の反対側に歩いていた。
いきなり頭を優しく叩かれ、私は慌てて止めようとしたが。
「ちょっ」
「まぁさ、よろしく頼むぜ」
私の制止も聞かず、振り向きもせず、それだけ残して彼は人々の中に消えてしまった。
と、慌てて私は引っ込めたものがあった。
彼を止めようとした手。
つい、ふいにでてしまったのだったが……。
「……」
言葉がでない。
ヴァイス。ヴァイス・グランセニック……か……。
頭の中、口の中だけでつぶやいてみる。
あの人は。あの、私の心までまるで見ているようなあの人は、あの人はいったいどんな人なんだろう……。
と、ふいに後ろから誰かが私の名前を呼んだ。
「ティアー!」
「……スバル?」
「ティア!ミーティングはじめるってーっ!」
そんないろんな人がいるのに、遠くから名前を呼ばないでよ……。
ふぅ…とため息がでながらも。
「今行く!」
私は駆け出した。
これから見ていく夢を追いかけるために――。
あの日。
私がまだ人との関わりが少し苦手だったころ。
はじめて重ねた名前と名前。手と手。
あのときが、私と彼との時間のはじまり――。
〜あとがき〜
ばばーっとかいてしまいましたヴァイティア10のお題の初っ端。
今回、『出会い』――ヴァイスさんとティアさんの二人のはじまりのお話だったので(自分作のお題なのにね)、確かかかれていなかったはずの二人の出会いをかいてみました。……かかれてませんでしたよね?
はなしはじめはヴァイスさんで、ヴァイスさんがはじめにティアさんに軽くナンパ(?)をしてみて、だんだん話していく、みたいな……。
無印なのはでかかれていたように、名前を呼びあうことから二人ははじまるので、しっかり名前は呼ばせましたよ?
ただ、ユーなのの1みたいなタイプの書き方ではないので、いちゃつかせられなかった。そこが残念。
お題内外どちらでもいいからヴァイティアで甘々かきたいですね。うぐ……。
(旧題『ヴァイス×ティアナで10のお題・1 出会い』文章そのまま、題名改名)
【Short Storys】
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