いっつも夜遅くまで馬鹿みてぇに練習しているあいつ。
どこまでも一途で、どこまでも純粋で、どこまでも、どこまでも、馬鹿みてぇにまっすぐな緑の瞳。
憧れの面影に背伸びするように、必死で、ちぃとずれても一本道を走り続けるその背中。
夢を大きく見るな、とは言わねぇ。
でもさ、ちぃとだけ、言わせろよ。
―――――、よな。
A recess
「はっ!えいやぁ!」
――ああ、またやっているんスか。
外から聞こえる少女の意気込もった声。
外はもうすっかり真っ暗で、あかりがあるのは俺が今いる格納庫だけだ。なのに、よく練習している。
練習場所はいつも俺の相棒のヘリがいる格納庫の近くのグラウンド。整備員達が帰り、俺が最終チェックをしているころからあいつの声が聞こえてくる。
グラウンドを軽く見ると、あいつは、あいつらしいオレンジのツインテールを揺らし、あいつの愛機の白とオレンジの銃を両手に持って駆けている。
ティアナ・ランスター。
大切で憧れていた人の夢を追い掛ける、どこまでも一途な、普通の少女。『努力』という言葉が最もあう少女だろう。
「はぁぁ……!」
一気にティアナは駆けて、
「せぃやぁぁッ!」
思いきり、振りかぶった。
よくこんな時間まで、やっていられる。
「……まったく、あいつは」
俺はそのまま、ふぅ、と、思わずため息をつく。
そのまま、俺はティアナを見続けていた。
はぁ、はぁ、と荒い息をつきながらも立っているティアナ。その口が開く。
「い、行くよ、クロスミラージュッ!」
<OK>
彼女の愛機・クロスミラージュが答えると、的となる魔力が浮かぶ。
そのとき。
「ティアナッ!!」
ぐらり、とティアナの体が崩れかけた。浮かんだ魔力は消え、慌てて俺は走ってティアナの体をささえた。
「おいっ!大丈夫か、ティアナ!」
「あ……、ヴァイス陸曹?」
ぼぅ…とした目は俺を中途半端に見つめている。
「大丈夫か?」
「は、ぃ…平気、で……」
一人で立とうとしているが、足がひくついている。うまく立てそうにない。
「ったく……体が休息を欲しがっているんだよ」
「……は、ぃ」
そう言うと、ふわり、と俺の体に体を軽く預けてくる。
――お、おいおい……。
思わなかった事態にあせったが、逆に俺が手を引いたらそのままついてきた。
ティアナをつれて歩いて格納庫まで来た俺は相棒のヘリ――ストームレイダーのところまでつれていき、ストームレイダーに背中を預けさせながら座らせた。
ティアナが倒れないように、隣に座った。
ティアナは、まだ眠そうな緑の瞳をゆっくり俺に向けてきた。
「ぁの……すみません」
「いいっスよ。まったく……ほどほどにしないとだめだぞ?」
「……はぃ」
ぼぉ…としている瞳はいつもの、スターズで模擬戦している瞳とはずいぶん違う。――そんな彼女も、かわいいっちゃかわいい。
――そういえば、ずっと行動していたんだったな。
水分が必要だな……と俺は考えて、ちょっとお茶でも買ってくっか。――と、途中まで考えた。が。
……かくん。
「――?」
自分の肩に、確かな温もり。
「――ティアナ?」
思わず、自分の肩に目線を向けたら。
そこには、彼女の寝顔。
「――っ!?」
思わず事に心臓が跳ね上がる。
それは、どこまでも素直な、純粋な、綺麗な寝顔だった。意地をはる顔でもなく、話し中に笑っている笑顔でもなく、はがいなさに悔やむ顔でも、泣いた顔でもない……安心しきった顔。
そんな寝顔に心臓が高まるも、素直に肩にかかる重さと温もりと、寝顔につい笑顔になってしまう。
「――さん」
ふと、ティアナの口が小さく動く。
「……兄、さん」
――どくん、と。俺の心が反応した。
ティーダ。……ティーダ・ランスター。
彼女が必死に手をのばし続ける、彼女のたった一人の家族だった男性だ。
眠り続けながらも「兄さん」と、そうつぶやき、ぎゅ…と俺の服を握ってきた。
そんな姿に、ちくり……と胸が痛んだ。
「――ティーダさん」
俺はひそかにつぶやいた。
「ティーダさん。俺は……ティアナが好きです」
ティアナが気付かないように、静かに。
「あなたが護りたかった……ティアナが、好きです」
どこまでもはてない、空…宇宙に向かって。
「だから――」
そう、続けようとしたとき、また、「――」とティアナが小さくつぶやいた。
「――ヴァイス、陸曹」
「え?」
思わず、空から彼女の顔に目線を変える。
そんな俺をしってしらずか、彼女は口を動した。
「――好き…」
――とくん。
思わず、目を見開く。
ティアナは、そのまま寝ている。
俺は、そのまま俺の服を掴み続ける手をとった。そして、その手を俺の手にからめる。その手からまた、彼女の体温が伝わってくる。
そして、肩とストームレイダーに預けていた体を抱き寄せる。
そのまま、俺は抱きしめる。
細いけれど、しっかり鍛えられた体。そこにはしっかり、彼女の温もりがある。
そっと、綺麗なオレンジの髪をすいてやると、「んぅ……」というくぐもった声がする。
――やはり、俺は、こいつが好きだ。
「――だから」
だから、俺は。
「彼女を、――ティアナ・ランスターを護りぬきます」
この温もりを護りぬく。
それが俺の、――ヴァイス・グランセニックの決意。
それから、彼女を抱き、自分も睡魔にかかっていった……。
* * *
「……あれ?まだ電気ついてる?」
ひょこ、と格納庫に入ってきたのは、ヴァイスと同様ヘリパイロットのアルト・クラエッタだ。
「おっかしいな。誰もいないはずなのに……つけ忘れかな?」
首をかしげながら、奥の電気のスイッチの場所まで行こうとして、ふいに魔力感があるストームレイダーに話しかけた。
「あの!他に人いますか?」
答えは軽い沈黙。そして。
<……Back>
「え、後ろ?」
そう言って、ストームレイダーの後ろに周りこむと。
「……あらぁ」
そこには、二人ぶんの寝息。男らしく座っていて目を閉じているヴァイスと、その胸の中で気持ち良さそうに眠りについているティアナ。
アルトもしばらく沈黙して。
「……なんか、すごいとこ見ちゃった感じなんだけど」
<……>
ストームレイダーに愚痴ついたのかはわからないが、ストームレイダーも、ただ沈黙。
「……まぁ、別に言いけどね。風邪ひかなきゃ」
そんなことないだろう。互いが互いの体温があるのだから。
「……まったく。この二人は」
ストームレイダーとの沈黙を壊したいのか一人つぶやき続けるアルト。
「いいですよね、電気消しても」
<……OK>
「了解です」
アルトはそのまま、すたすた歩いて、電気のスイッチに手をかけ、一回ふりむいて。
「おやすみなさい。ヴァイス陸曹、ティア。……いい夢を」
電気は消えて、アルトは自室に戻っていった。
〜あとがき〜
やはり、恋愛物語はなれていませんね、はい。
アンケートで一位をとったヴァイス×ティアナペア。
今回もまだくっつかなかったアニメ版ヴァイス×ティアナをかいていました。
いつのまにか、短編小説の『もう一度の決意』と長編の『魔法少女リリカルなのはStrikeS OrangePiece』につながってしまいそうな話に自然になっていました。はは。
どうしてもヴァイスさんとティーダさんの繋がり感があって……。アニキな感じが、共通していて。
手をからめるネタは好きです。体温とか、そんなネタも。
でも、やはり恋愛物語はうまくない。駄目だ、あはは←
【Short Storys】
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