「アリサちゃーん。そっちの用意終わった?もうすぐだよ?」
「あーちょっ、ちょっとわかってるわよ!待ちなさいって……」
カチャカチャと嫌に鳴るぶつかり合う音が、焦る気持ちをより痛めつけてくる。
そんな姿を、自分の用は終わって余裕のすずかが見て笑った。
「もーアリサちゃんは。決まったらすぐ決行しちゃうんだから」
……う。思わず苦い声が漏れた。
あたしはつい昨日、ある三人にメールを送った。
『突然だけど、私ん家でお茶会やるわよ』――と。ついでに、文末には『答えは聞いてない』とも。
「けど、あのメールによく何とも思わず来てくれるよね」
「……すずか。それってどういう、」
「ん?」
「…………いや」
あたしは黙々と作業を続けた。
「まぁ、それが長年の付き合いってもんなんじゃないの?」
ぽろり、と本音を漏らしてみて。
少しの柔らかな沈黙の後――チャイムの音が、鳴り響いた。
パタパタとすずかが小走りで玄関に向かってくれる。そして。
「お邪魔しまーす」
「アリサ、来たよ」
「拒否権なしのメールに答えたでー」
久しぶりの音質の違う三つの声が部屋に響く。
「って、入ってきてそうそう不満そうね、はやて」
「えー?そなことないよ?十分嬉しいで」
「……ふぅん」
あたしがじと目で見てやれば、はやてはにかっと笑った。いつもと同じく。……やっぱり、少し無理してるけど。
「あ。アリサ、お茶会用に持ってきたよ」
「じゃーんっ!私の家のケーキなの!」
「ありがとフェイト、なのは!じゃあ、テーブルの上に置いといて」
そう言うと、なのははにこにこと箱を置いた。フェイトも腕を前に絡めて微笑んで立っている。
みんないつもと同じ感じ。でも、疲労感が否めないのは確か。
「……じゃあ、みんな座ってて。お茶入れてくるわ」
あたしはその場を立ち去る。
後ろから「私も手伝うよ」「大丈夫だよ、フェイトちゃん。私が手伝ってくるから、座って待ってて?」との会話が。……すぐ気が利くところがフェイトらしい。けど、今日は彼女達を動かすのが目的じゃない。
キッチンにみんなを待たせないように駆ける。
――刹那、部屋の端に置いといた小さな機械のスイッチを入れて。あたしは部屋を出た。
あたしは用意しといたジャスミンティーを入れる。ジャストタイミングで五つのティーカップに入れて。
お盆で持っていくと、そこには。
「なんか……ええ香りやなー」
「ん……そうだね……」
「なんの香りかなぁ……ぁ、アリサちゃん」
ふわふわのソファーの上で、とろんとしはじめた招待した三人。
「ねぇアリサ、これ……何の香り?」
「んー?何の香りかしらね?」
「えー……ずるいでぇアリサ、ちゃ……ん……」
そして、うつらうつらしていたはやての瞼が閉じられる。
フェイトも香りを気にしながら目を閉じて。
「アリサちゃん……ごめんね、ちょっと、寝かして……――」
どうにか起きてようとしていたなのはもソファに横になった。
あたしはお盆をテーブルの上に置くと、ケーキの箱を持つ。
「――寝ちゃった?みんな」
ケーキ皿を持って帰ってきたすずかの笑顔に、「ええ」と答える。
「でも、さすがだわ。みんな香りに気付いてた。何の、かはわかんなかったみたいだけど」
「それは……だって、私とアリサちゃんのブレンドオイルだもん」
「目的は成功、っと」
あれから――買い出しに行ってから、あたしとすずかは数種類の瓶を買ってきた。そして、毎回の放課後にブレンドをしはじめた。
一つずつ、割合や、種類の数。一つずつ、一つずつ。
――全ては、彼女達を少しでも癒せるように。
「まぁ、ここまで効果覿面とは思わなかったけど。よかっ、た、わ……ふわぁぁぁ〜……」
……あれ?
あたしはゆっくり自分の力が抜けていくのに気付く。なんで?
「大丈夫?アリサちゃん?」
「す、ずか……?」
彼女にしまってこようとしていたケーキの箱をとられ、元に戻されてしまう。
あたしは誘導され、なのは達のいるソファに座せらせる。
「すず……か……?」
「アリサちゃんもお疲れ様、ってことだよ」
「ぇ……?」
「――おやすみ、アリサちゃん」
あたしは思わず、声を上げようとしたけど、……そのまま、睡魔に襲われた。
「――知ってるんだからね、アリサちゃん。アリサちゃんが、寝る合間を惜しんで、アロマのブレント続けてたこと」
優しい香りの静寂に、優しい声が響き、……一つ、欠伸が零れた。
「私も、続けてたけど、ね……寝ちゃおっか、な。私、も……――」
その言葉も、ゆっくりと柔らかな雰囲気に溶けていった。
雲一つない空、照らす太陽。
その下で旧友である少女達は。
――日だまりのようにあたたかな香りに包まれて、眠りあった。
“HIDAMARI”Aroma
〜あとがき〜
今回はユズキさんのリクエスト作品です。遅れてしまってすみませんっ
「締め切り間際に参上します、ユズキです。せっかくの機会なのでリクエストさせていただこうかと思いました。
主要キャラクターは「アリサ・バニングス」でお願いします。内容は、中学生時代で、みんなを心配しながら日常過ごすアリサの心情などをいただけたらな、と。締めはほのぼのできるオチだと嬉しいですね。
長々とすいません、楽しみにしちゃいましたのでお願いネ!(キラッ☆ ではではこのへんでw」
はい、楽しみにされちゃいましたヨ!←コラ
今回はアロマを物語の鍵に。女の子らしいかな、と(笑)タイトルの「日だまり」はアリサのイメージです。
で、アリすずです。私の中だとアリサの隣はいつもすずかです。アリすずいいよアリすず!!←
……と、いろいろ好き勝手やらせていただきましたが(笑)リクエストありがとうございました!
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