さらさらと、涼しい風が吹いている。
 一面青で染まる空。雲もなく澄んだ蒼穹に浮かぶ二つの影。
「はやてちゃーん!」
「はやく飛んできなよ、はやて!」
 白の影と黒の影が下に向かって叫んでいる。
 真下にいるのは、大きな帽子を被った、栗色のボブ。
 足にきゅっと力を入れ、手に持った杖を握り返して。

「……やっぱ……あたしが空を飛ぶなんて、無理や……っ!」

 それだけ言うと、ぺたんと地面に座りこんでしまった。



―Fry, Friends, Fry―




「大丈夫?はやてちゃん」
 ふわっと風が下向きに吹き、とんと桃色の光が降りてきた。
 座りこんだ少女に手を伸ばす。
「うう……」
 相手の手をとり立ち上がった少女は両手で十字のついた杖を握り直した。
 続けて、金色の光が降りてくる。
「やっぱり、こわい?」
「……。あたしには、なのはちゃんやフェイトちゃんのように飛べへんよ」
 沈黙の後、自笑するように表情を作ったはやてに、なのはとフェイトは顔を見あわせあった。

 闇の書事件が終結し、鳴海市に滞在する魔導師たちが平穏を取り戻していたころ。
 闇の書――夜天の書の最後の主である八神はやては高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンに新たな自分の力を有効活用する方法を習いはじめた。
 膨大な魔力値を持つはやては、今はなき夜天の書の覚醒人格リインフォースの思いとともに、誰かの力になるために、はやては魔導師になる決意をしていた。
 今まで不自由だった足も自立出来るようになり。先に魔導師の道に立っていた親友、なのはとフェイトに魔法を教えてもらっていたの、だが。
「まさか、はやてが高所恐怖症だったとはね」
「うー……」
 フェイトの言葉にはやては呻き。「しゃあないやん、」と口を尖らした。
「今まで自分の足で立ったこともないんやで?なんに、いきなり空に行ってみぃ言われても……」
 しゅんとしてしまったはやてに、なのはとフェイトは苦笑するしかない。
 一度、なのはとフェイトは後ろ目がちなはやてを自分たちのサポートつきで一緒に飛んでみたことがあった。
 ……が、見い出してしまったのは、彼女が高いところが苦手――俗に言う、高所恐怖症だったのだ。
 下を向きっぱなしなはやてになのはが拳を作る。
「だ、大丈夫だよはやてちゃん!こわくなんてないよ!」
「そう、なんかなぁ……」
 いつも明るいはやて。なのに、ここまでしなっていると、さすがの親友たちも困ってしまう。
 さて、どうしたものか。
「でも、はやてちゃんは魔法の使い方はすごいうまいんだよねー」
「むしろ、こんな短時間であそこまで扱えたらはやいってものじゃないよ。なのはもはやかったけど、」
「……けど、それは立ったまんまで撃ったからやろ」
 ぽつり。はやてから落ちた言葉に返答はない。
 プラスな言葉もマイナスに流れていってしまう。
「……しゃあないやん……こわいんやん……」
 これでは何もかも逆効果だ。
 ぎゅっと塞がれた唇。
 なのはとフェイトは立ちすくしてしまう。
 なんで、彼女はこわいのだろう。いや、どうすればこわくなくなるのだろうか。
 はやては飛んだことがあるのに、――?
「アレ?」
「ん?どうしたの、なのは」
「ねぇ、はやてちゃん」
「なんや、なのはちゃん」
「最終決戦のとき、はやてちゃん普通に飛んでたよね?」
 なのはの一言に二人は、「あ」、と。
「そういえば、そうだったね」
 うん、と頷いたフェイト。
「ねぇ、あのときはこわくなかったの?」
「え、そんなん……いきなりやったし、それに……」
 はやてはふっと目を少し影らせながら、それでも、笑って。

「――リインフォースが、いてくれたから。多分、不安なんか思わんかった」

 そう、ぽつりと。はやては零し。
 なのはとフェイトは、無言のままに、はやての言葉を待って。
「胸の中、あったかくて。ずっと一人だったのに、みんないて。不安とか、全然なかった。こわいとも思わなかった。」
 そう、つぶやいて。
「……なんてな。本当はようわからん」
 ははは、て苦笑した。
 そして、笑って閉じていた瞼を開け――びっくりする。
「……じゃ、」

 ――はやての前に手がさしのばされていた。

「飛べるよ、はやてちゃん」
「え……?……なのは、ちゃん?」
 目を見開くはやてににっこりと笑うなのは。
「うん、大丈夫。飛べる、はやてなら」
「フェイトちゃん……」
 フェイトが頷き、はやてを見つめる。

「一人じゃないもん、はやてちゃんは」
「私たちがいる」

「飛べるよ」
「飛べる」

「――はやてちゃん」
「――はやて」

 力強く放たれる言葉たち。
 その二人の強い目に、はやては、

「――じゃあ。頑張って、みるかいな。根性、見せたるで!」

 まっすぐ前を向いて、にっと、いつものように、笑った。
 なのはとフェイトはその表情を見、顔を見あわせて、笑った。
 はやては、自分のデバイスを握り返した。
 ――ぎゅっと、力強く。


「じゃあっ!はやてちゃん!」
「行こう!はやてっ!」

「――うん!」



もだちとなら
べるから




 ――いつになっても、空は青い。
「――リイン、ユニゾンするで」
「はいです、はやてちゃん!」
 明るい声とともに、天で輝く空色の光と。
 ――次に浮かぶのは、白い髪と空色の瞳の一つの影。
『先になのはさんやフェイトさんが向かってます』
「了解や。じゃあ、現場に行くで!」
『はいです!』

 今日も黒い羽根で十字を持つ天使は、仲間とともに空を翔ける。





〜あとがき〜
 3周年企画、4つ目は『友達』の『と』でした。うん、ここは普通!←
 タイトルは英文と日本文はかなり意訳な差があります。英文のほうは某おっさんが飛ぶ映画のタイトルからインスピレーションを受けました(見たことないけどね!←)。
 はやてちゃんが魔法使いたてのころ、高所恐怖症だったらいいなって。勝手な設定ですスミマセン。でもだって、それだったらなおかわいいと思うもの←
 最近はやてちゃんが好きですとくに。みんな愛しいんですけどね。
 リリなのではこれで企画完了です。もしよろしけば次の作品も見ていただけたら光栄ですv




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