ミッドチルダ。ある休日。
「ねぇねぇ、なのはママ!」
 リズムよく歩み寄ってくる小さなツインテール。下に流れる長い髪は金に輝く。
 呼ばれた母親はキッチンで仕事を終え、タオルで手の水気をとっていたサイドポニーを揺らし振り返る。
「どうしたの?ヴィヴィオ」
「ねぇ、なのはママは!どんな小学生だったの?」
 愛娘に聞かれた質問に、女性は「え?」と首を傾げた。
 ぴょんぴょんうれしそうに跳ねているヴィヴィオももう小学校の入学式を終えて随分たつ。立派に学校生活を楽しんでいるヴィヴィオに、なのはも母としてあたたかな気持ちもあった。
 それなのに、母親にいきなり昔の学校時代を聞いてくるなんて。どうしたのだろうか。
「――ヴィヴィオがね、なのはの子供時代ってどうだったのって聞いてきたんだ」
 思考の死角から、質問してきた娘からではない答えが帰って来、なのはは声をあげた。
「ユーノくん?」
「最初はね、僕となのはがいつ出会ったんだって聞いてきてさ。なのはが小学生のときだよって言ったら、」
「なのはママはどんな女の子だったのかなぁって」
 久しぶりに数日の休暇とともに帰宅したユーノがなのはに微笑み。後ろから抱き上げられ、よりうれしそうに笑っているヴィヴィオが自分の素直な気持ちを言葉にした。
 なのははそれに、「うんと……」と頭を捻る。
 ……表す言葉が浮かんでこない。魔法ということ以外は、いたって普通の女の子だったと自分では思っているからだ。しばらく考えこんでしまう。
 ――すると、ユーノが突然声を発した。
「じゃあさ、」
 そう、ふわりと笑って。
「――なのはの小学校に行ってみようよ」



―Go to the school!―




 風が心地よい昼下がり。雲一つない青空の下、親子は立っていた。
「うわぁー久しぶりだなぁ……」
 目の前にあるのは清楚で立派な建物――私立聖祥大学付属小学校。
 近辺では名の知れた名門校であり、高町なのはの出身校だ。
「なのはのご両親のところに帰省はしても、学校までは行かなかったもんね」
 たまに地球に帰省するが、なのはやユーノの仕事上、時間の上限の中で翠屋に顔を出したり親友たちに挨拶したりすることぐらいしか出来ないことが多々だった。まして、学校にまで足を運ぶ意味もなく。いつの間にかその建物から遠退いていた。
 なのははユーノの言葉に首を縦にしながら「……でも、」と口を開く。
「学校前までは来れたけど……入れるかなぁ」
 それは素朴ながら、ごもっともな意見ではあった。絶対に入れないわけではないだろうが、絶対に入れるわけでもないだろう。
「知ってる先生がいるなら話は別だけど……もうみんな転勤か退職はしてるだろうし」
 卒業して間もないときとは場面が違う。二十歳をこえた今、果たして入れるだろうか?
「えー。入ってみたいよぉ」
「うーん。でも、こればっかりは……ねぇ」
 ぎゅっと握ってきたヴィヴィオの手になのはは苦笑するしかない。
 ユーノはしゃがみこみ、下を向きがちなヴィヴィオと視線をあわせる。
「しかたないよ、ヴィヴィオ。じゃあ、学校に入れなかったからさ、あいた時間は翠屋でおいしいケーキを食べようよ」
 ね、と微笑むと「……うん」と頷いた。
 ヴィヴィオの好きな翠屋のケーキ。それでもまだしょんぼりとした声色に、本当に見てみたかったんだな、となのはは目を細めた。
 それでも、なんとかする方法もなく。なのははすでに翠屋に向かいはじめたユーノとヴィヴィオの後を追うために踵を返して。
「――なのはちゃん?」
 その言葉に、なのはは目を見開き、振り向き直す。
「……ぁ……」
 そこにいたのは――腰を曲げた小さな姿。土埃のついたエプロンを着た、おばあさんだった。
「髪型とかは昔と変わっちゃったけど……なのはちゃんだよね?」
 にっこりと笑って歩み寄ってくるその姿になのはは。
「用務員さん!」
 駆け寄り、抱き着いた。


* * *



「――へぇ、なのはちゃん、今は海外で仕事しとるんかい。すごいねぇ」
「うん。でも、用務員さんもすごいよ。まだここで働いていたんだぁ」
「まぁね。私はまだまだ現役よ」
 力強く笑った女性に、なのはは大きく頷いた。
 あれから、なのはとユーノ、ヴィヴィオはなのはの知り合いである用務員の方に無事に学校に行れてもらうことが出来た。
 今、三人と用務員はともに休日で静かな学校の中を歩いていた。
「でも、なつかしいねぇ。あのころはなのはちゃんもおてんばさんでね」
「にゃはは……」
 なのはと彼女の関係は実はかなり古くからはじまっていた。小学生低学年のころ出会ってから、二人は会うたびにいろいろと話をし、なのはが彼女の名前を知らなくとも、いつしか親友同士のように話していた。
 あのころより白さが目立つ髪や折れた腰に時間を感じながらもなのははうれしさを隠しきれなかった。
 彼女のなつかしさを含んだ言葉にヴィヴィオがうれしそうに声を入れる。
「なのはママ、おてんばさんだったんですか?」
「そうよー。もういっつもいろんなところ駆け回ってたわね。あぁ、そうそう。アリサちゃんともよく喧嘩して。たまに私のところに逃げてきたっけ」
「ちょっ、用務員さん!」
「ははっ」
 けらけらと笑う彼女になのはは声をあげ、そんななのはにユーノが笑った。つられてヴィヴィオも笑う。
「ええっ。ユーノくんっ。ヴィヴィオも笑わないでよー!」
「はは。だって、ね?」
「あははっ、うんっ!なのはママもアリサさんも、みんなおてんばだったんです、ね!」
「もうっ!ヴィヴィオー!」
 くすくす笑い続ける金髪の二人になのはは顔を赤くして声をあげる。
 それを見て、用務員の彼女は微笑む。
「あっはっは。――そういやさ、なのはちゃんさ」
「はい?」
「聞いちゃいなかったけど、この二人はなのはちゃんの家族なんかな?」
 その娘は「ママ」言ってるけど。
 それになのはは再び真っ赤になる。えと、と口の中でいろんな言葉を転がして、どんなのがいいか考えていると。
「――申し訳ありませんでした。私はなのはの夫のユーノです」
「ゆ、ユーノくん!?」
「あぁ、やっぱりそうだったかい。お似合いだもんなぁ」
「ふぇえっ!?」
「娘のヴィヴィオですっ」
「うんうん、しっかり挨拶出来て偉いなぁ、ヴィヴィオちゃん」
「えへへー」
 きちんと一礼するユーノとぴょこんとおじきをするヴィヴィオ。それぞれに彼女は笑って返す。
 いい子いい子とヴィヴィオを撫でる彼女は、真っ赤な顔したなのはに一言。
「こんなカッコイイ旦那さん貰って、カワイイ娘産んで。幸せ者になったんねぇ。なのはちゃん」
「――――〜ッ」
 ツインテールだったおてんば娘は、これまでにないくらい顔を真っ赤にさせた。


* * *



 それから。なのは一行は用務員とともに校内を巡ってみた。
 なのはが過ごした教室。走りまわったグラウンド。休み時間に遊んだ体育館。お昼を食べに行った屋上――。
 どれもが懐かしい風景に、なのはは目を輝かせ。光景とともに語られる喜怒哀楽含んだ思い出にヴィヴィオも目を輝かせ、ユーノはそんな二人に少し後ろから微笑む。
 そして、暮れはじめた日の中。複数あった足音がとまった。
「――さて、もうこれで小学校は一周出来たね」
「ヴィヴィオ、満足した?」
「うん!楽しかった!」
「おぉ、そうかい」
 大きく頷いたヴィヴィオにぽんぽんと用務員が頭をやんわり叩く。えへへ、と笑ったヴィヴィオにユーノがなのはに踵を返す。
「じゃあ、日ももう暮れてきたし。そろそろ翠屋に帰ろうか」
 ふわりと笑って声をかけてくれるユーノに少し顔を夕日色に染めながらも、首を縦にした。
「用務員さん」
「ん?」
「今日は、ありがとうございましたっ」
「んー。なんかなのはちゃんに敬語使われるとおもしろいわぁ」
 そう言ってけらけらと笑った彼女になのはは顔を膨らます。
 くるりとなのはは踵を返し、そして。
「じゃあ、また、――」
 続く言葉は、出なかった。
 ――ぽんぽん、と、頭を叩く、優しいしわくちゃの手。
 背伸びした小さな体になのはのすべてがとまった。
「――大きく、なったねぇ。おてんばちゃんだったのに」
 やんわりと笑う。あたたかい手。すべてが、小さかったあの頃に重なる。
「幸せになるんだよ。――なのはちゃん」
「…………うん。ありがと。用務員さん」
 ぽんぽんと撫でてくれるあたたかさに、なのはは笑い返した。
 その二つの姿を見てユーノとヴィヴィオは、幼い女の子と作業服の女性を、重ねたという――。



っこうへ
行こう!




 また、帰りたくなったよ。
 私の大好きな母校。





〜あとがき〜
 3周年企画小説3つ目は『学校』の『が』でした。べ、別に某番組じゃないやい!(爆)
 今回はユーなのヴィヴィの家族構成!家族分を多めにしてみました。しかしユーノさんが自然に甘さを醸し出してくれました。何なのあの紳士。
 後、かなりオリジナル分入れちゃってすみません。用務員さんは最初先生にしようとしてやめました。まだ用務員のほうが公式に影響ないかなと。箱庭はもはや何それ設定。忘れてくださi(ry
 久しぶりにユーなの+ヴィヴィ書けて楽しかったー!次書くときはより甘いヤツ書きたいです(キリッ




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