赤い、朱い、紅い――、永遠とアカに染められた、世界。
 嗅覚は鼻を潰すような焦げ臭い。視覚は明るすぎるアカに白さを感じ。聴覚はパチパチと細かな音しかなく。
 アカい景色にときたま金の粉がキラキラと舞い上がる。だがそれは今、幼い瞳には恐怖しか感じなかった。
 すべてを埋め尽くすアカに、小さな存在は囲まれ、座りこんでいた。
 その肩は小刻みに震え、身体中は黒ずみが多々見える。目はただアカい世界をうつすしかなくて。
 わかっていた、この襲ってくるアカい揺れる景色に自分は逃げられない。
 ……それでも。
「――けて、――」
 小さく、本当に小さく。本能が理解していても、心は。
「――――助けてぇ……!」
 何度目かわからない、涙が小さな目から落ちた。
 それももう、数多のアカに飲みこまれ、消え、
 また小さな頭は下がった――その瞬間、
「――大丈夫だよ!」
 少年の耳に、もう少年以外の生命反応のないここではありえない、返事が届き。
 次の瞬間、横のアカが向こうからの瞬風でかき消される。
「……大丈夫だよ」
 そして、アカの世界に今までなかった色がうつる。
「――安全な場所まで、一直線だから!!」
 その色は、綺麗な、アオ色だった。



―Light in Your Heart―




 ゆらゆらと不安定なアカに、ただ確固として存在する、アオ。
 それに、少年は身体を動かせない。
 そんな怯えてしまいすぎた小さな目にアオ色はふわりと笑った。そのまま、足を水平にローラーを転がし、少年の前に腰をおろす。
「こわかったよね。……でも、もう大丈夫だよ」
 そして、少年の頭を撫で、
 ――パチン、と小さな音が鳴った。
 何かの部位が燃え割れたわけではない。……それは。
「……っ、……!」
 少年の目が、ぐちゃぐちゃに、揺れている。その目を、痛む頬を押さえながら、それでも女性はアオ色の髪を揺らしながら微笑んだ。
 それに、余計少年の顔が震える。
「……来る、なぁ!」
 ぼろ、と落ちた、声。
「来ないでよぉ、来るなぁ!」
 同時にぼろぼろと落ちていく涙。
 ひくっ、ひく、と鳴る小さなのどに、女性はついた膝をそのままに、再び小さな頭に手を乗せる。
 ……今度はその手を、払われなかった。
 その手は優しく頭を撫でた。クロの、温もりもないグローブ。だが、とても優しい。
 ただ泣き続ける顔がほんの少し、強張りがなくなった。それに彼女は笑って。
「こわかった、だけなんだよね?さみしかった、だけなんだよね」
 聞いてはいるが、その言葉はひどく優しかった。
 少年はコクン、と小さく頷く。
 それに女性はまた数回頭を撫でて、落ち着いてきた相手の息使いに手を小さな肩に持っていった。
「じゃあ、はやく出ようよ。もうこわい思いするの、ヤダもんね」
 ね?と首を傾げ、少年の腰に手を回す。
 それに、少年は――すっと、離れた。
「え……?どう、したの?」
 その行動にアオい女性は、戸惑う。
「腰、とか、どこか、痛むの?ケガしてたの?」
 不安の声に少年はふるふると小さく首を横にふる。それに、女性はふっと安心して。
「じゃあはやく、」
「――ぼくは、いいよ。お姉ちゃんだけで、逃げて」
「な、何言ってるの!一緒にお外に逃げようよ!?」
 慌てて言って少年の腕を掴む。だが、細い腕はその手を拒んだ。
 はっきりとした拒絶に、先程収まったパニックが再発したからではないことを証言させられる。
「……こわく、なかったの?逃げたくなかったの?」
「…………こわいよ」
「じゃあ!」
「こわいよ!!こわいし、逃げたい!でもっ!」
 女性のミドリ色の瞳が見開かれる。
「もうこんなに燃えちゃって、ぼくがいたらお姉ちゃんが助からないよ!お姉ちゃん一人なら大丈夫かもしれないけどっ……、ぼくなんていたら、死んじゃ、」
 ――その、刹那。
 少年は、ふわり、と。ひどく優しいあたたかな感覚に包まれる。
「……大丈夫だよ」
 大丈夫、大丈夫。
 とん、とん。後ろに回された手が背中を規則よく叩いていく。
 それに力なく、少年は首をふる。
「むり、だよ……。ぼくがいたら、お姉ちゃん、むり、」
「無理なんか、じゃない」
 軽く叩いていた手が止まり、今度はゆっくりと背中を摩りはじめる。
 鳴咽が、火の中ではっきりと響く。
「諦めちゃ、駄目。大丈夫だよ。絶対帰るんだ、って。帰ろうよ。大丈夫」
 そして、女性は抱きしめていた腕を解く。……ぐしゃぐしゃの顔が、そこにあった。その顔に、女性はにこっと笑って。
 ――ぐ、と。拳を少年の左胸に押し当てる。
「大丈夫。どんな時も、ちゃんと。ぼくにだって、誰にだって。ちゃんと希望はあるよ。忘れないで」
 だから、――諦めないで。
 そのはっきりとした声に、少年は一瞬目を見開き、……次には、女性の胸に飛びこんでいた。
 我慢しない鳴咽とともに。ぐちゃぐちゃの顔で、少年は大きな頷いた。
 何度も頷く強さに、女性もぐしゃぐしゃな顔で何度も頷いた。
 ただ、抱きしめた、強く、強く。
 ――そして、何秒、何分たったのかはわからない。女性は、立ち上がった。少年の小さな身体を持ち上げて。
「行こうか」
「うん。……でも、重くない?」
「だーいじょぶ!私、これでも救助隊のエース、ヒーローなんだからね?」
「へぇー」
「む、信じてないね?」
 ぷく、と女性が頬を膨らませ、二人の目がかちあう。それから次には互いに笑いあっていた。
 胸の中にいる少年の瞳は、今だ潤みながらも、まっすぐ前を向いていて。
 ――そこに、甲高い音が飛びこんだ。
『――スバル!大丈夫か!?』
「あ、隊長!」
『あ、じゃねぇよ!そっちは平気か!?』
「はい、無事子供一人救助しました!」
 応答すると、通信してきたほうは。
『こちらは、全員救助完了だ。後は、その子供とおまえだけだぞ、何遅くなってんだスバル』
「あは、すみません、ちょっといろいろー……」
 苦笑して通信に答える女性に『何笑ってんだ、みんな待ってんぞ』と呆れた言い、女性は『了解』と話を終わらせようとして。
「あの、ちょっと……、いいですか」
『ん、なんだ?坊主』
「全員って、ここにいた全員、ですか?」
『――ああ。みんな無事だよ』
 その瞬間、少年の顔が弾けた。
「パパもママも、無事なんだ!」
「よかったね。じゃあ――私達も、無事に帰らなきゃねっ!」
「――うん!!」


 一面のアカ色に、一直線。澄んだ空のような――アオ色が渡っていく。
「行くよ。大丈夫?」
「うん!だって、」
 とん、と。小さな拳が女性の左胸を叩く。
「忘れてないよ。あるもんね、お姉ちゃんにも」
「――そうだよ!――じゃあ、行くよっ!」
「うん!」
 アオ色が、世界を駆ける。
 ――二つの命の光が、走り出す。



かりはいつも
なたの心に




 ――ちゃんとあるよ。





〜あとがき〜
 3周年企画第一段。あいうえお作文「あ」は「“あ”かり」と「“あ”なた」になりました。最初は「“あ”い(愛)」関連のつもりだったんですけど。愛ネタいつもと変わんない!と思って(爆)変更、そのときこの英文タイトルの同じ名前の曲聞いていたら「“あ”かり」を思いつきました。
 おかけで元々書きたかったスバルさんのレスキュー話が書けました。実はこの曲イメージで書きたくてうずうずしてました←
 英文のほうは、特撮好きの方々なら多分わかるでしょう、某光の戦士8兄弟映画の主題歌です← この曲も大好き。今の着信曲(爆)そして私のスバルさんイメージソングの一つ。
 せっかくの企画ですし、今まであまり書いてなかった熱血(?)もの、自分の書きたいものが書けて、個人的には満足です。




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